映画『カメラを止めるな!』は何故こんなに人気なのか?

最近異常なほどの人気を誇っている映画と言えば上田慎一郎監督の

『カメラを止めるな!』だ。

当初は超小規模上映の映画だったにも関わらず現在190館を超える規模で上映されているというまさに異例のインディーズ映画である。

出演している俳優たちも昨今の映画(邦画のみならず)にありがちな豪華な面々ではない。監督も本作が初監督作品で輝かしい実績もない。

一件話題になりそうな要素がないように見える本作だが、SNSを中心に話題になるほど人気の作品になった。

もはやトレンドですらあるこの映画の何がそんなに凄いのか?

私自身ライターという仕事柄『カメラを止めるな!』についての記事の依頼が舞い込んだりするためそう思わずにはいられない。

実際私も記事執筆前に池袋にある劇場に足を運んだ。

確かに劇場の熱気はすごいもので、おそらく何度も鑑賞しているであろう猛者達からカップルや親子まで幅広い年齢層で埋まっていた。

「最近映画に足を運ぶ若者が減っている。」日本人の映画離れがヤバい。」といった話があるのが嘘のような満員御礼である。

絶叫上映でも応援上映でもないごく普通の映画館(強いて言うならちょっと古い)なのに、なんだこの一体感は!

上映の途中スマホを触る者もいないし、笑うところは皆でしっかりと笑う。もうここは映画を楽しむことだけを目的とした「古き良き映画館」そのものになっていたのだ。

と、ここで先ほどの疑問に戻ろう。何がそんなに凄いのか?ということだ。

その答えはこれまで書いてきた「劇場の熱気」を生み出しているものでもあるし、衰退しつつある日本映画を救うかもしれない一手でもある。

それはズバリ「分かりやすさ」「真新しさ」だ。

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その1「分かりやすさ」

ここで言う「分かりやすさ」は単にストーリーが単純とか子供向けだとかそういうものではない。

正直に言うと世の中には『カメラを止めるな!』よりも面白い作品は山のようにある。

もちろん私にも『カメラを止めるな!』以上に好きな映画はあるし他にも勧めたい作品はあるのだが、どの作品も「分かりやすさ」に欠けていると感じてしまう。

「この作品は本当に人に勧められるものなのか?」「自分が好きなだけで他人には分かってもらえないかもしれない。」と思うことはざらで、事実映画の凄さって結構人には分かってもらえないものなのだ。

だからこそ分かりやすい凄さは必要で、「誰にでも理解できる凄い映画」を私も探していたのかもしれない。

この「分かりやすさ」が顕著に出ている映画で大ヒットを飛ばしたのが新海誠監督の『君の名は。』だ。

あの映画は美しいアニメーションや音楽の中に映画の醍醐味とも言える「どんでん返し」の要素を落とし込み、最後はハッピーエンドで終わらせた。

恐らくほとんどの人はあの映画を観て「あぁ良い映画だったなぁ」と思ったことだろう。しかしそこには上記したような「映画的凄さ」が分かりやすく配置されている。

その点『カメラを止めるな!』は非常に良い映画で、コメディ要素を入れつつも長回しや伏線回収など「映画的凄さ」を容易に理解できる作品になっている。

「実はあのシーン彼のアドリブで本当はNGシーンなんだ」とか「実はあのシーンで怪我したんだよねー」とWikipediaで知ったような知識をドヤ顔解説する必要もなく、映画を観ているその一回だけで凄さが分かる。

特に序盤の長回しは分かりやすさこの上ない。あれほど露骨な長回しとわざとらしい手持ちカメラを観れば誰だって撮影時の苦労が分かるし、「あれ、他の映画と違うぞ」と感じるはず。

しかも面白い。変顔や下ネタで子供を笑わせるような面白さではなく、練りこまれた脚本としての面白さ。笑いを堪えきれなくて咳き込む人が出るほど面白い。

悲しいことに現時点でこういう映画はかなり少ない。絶滅危惧種と言っても過言ではないほどに少なくなってしまった。

だからこそ映画と深く接してこなかった人にとって絶滅危惧種との初対面は次に解説する「真新しさ」に繋がったと思うのだ。

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その2「真新しさ」

昨今の映画はどれも似通ったものになっていないだろうか。

映画ファンからすればどれも違う映画なんだけど、映画を観ない人にとっての「どの映画も同じように見える」というのはあながち間違っていないように感じる。

映画上映前に流れる予告編でも大抵アメコミ映画もしくはそれに準ずるようなアクション映画、ジャニーズ系の俳優を使用した漫画かアニメ原作映画で溢れているではないか。

「映画館に行く人が少なくなった」と言うけれど何もそれは消費者のせいではない。似通った作品を作り過ぎた現代の映画産業に飽き飽きしている人がいるのも事実だろう。

だから「真新しさ」を求めていた人たちは我先にと『カメラを止めるな!』に飛びついた。

あの映画は今流行りの俳優は誰一人として出演していないし、CG満載のアクションがあるわけでもない。

古くからある映画の手法を多用した「低予算映画」なのである。

さらに面白いのがこの映画の脚本は「当て書き」で作られていることだ。(「当て書きとは…。」と解説する必要もないとは思うが、俳優の性格を役に反映させることを言う)

映画を観て気が付いた方もいるかもしれないが、この映画の役名は演じた俳優の名前がそのまま使われている。つまりあの映画に登場するキャラクターはフィクションであると同時にノンフィクションでもあるのだ。

これはもう無名の役者でないと成り立たない手法で、テレビやバラエティーで性格づけがされてしまっている役者たちでは絶対にできない。

恐らくあの劇場にいたほとんどの方はこのような実験的映画に触れるのは初めてだったことだろう。

今上映されている他の大作映画はお金儲けが第一になり「映画的凄さ」は二の次。もちろん実験的な撮影方法や手のかかる長回しなんてあるはずがない。

今話題の人を起用し、人気の漫画を映画化する。この流れが、特に邦画では定番化しつつあるのが実状だ。

『カメラを止めるな!』は昨今の情勢をものともせず、ただ監督が作りたい映画を創っている。

「これは俺の映画だ!」と売り上げやスポンサーを一切気にせず創った結果が作品の完成度につながったとみて間違いないだろう。

そんな作品が口コミだけでここまでヒットした今、大手映画製作会社ももう無視はできない。今あるこの状況を変えられるのではないかと淡い期待を抱けるくらい『カメラを止めるな!』は画期的な作品だ。

そうして映画に感銘を受けた人がSNSに拡散し、話題が話題を呼んで今のような状況になっているではないだろうか。

SNS時代にこの映画が作られて本当に良かったと心から思う。「拡散」という言葉がない時代に作られたら埋もれてしまっていたかもしれない。こんな良作が日の目を見ないのは忍びなさすぎる。

もしこの記事を読んでまだ『カメラを止めるな!』というインディーズ映画を観ていないのであればぜひ劇場に足を運んでみてほしい。そこではこれまで観たこともない「新しい」映画が観られるのだから。

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