
今回はA24が送るホラームービー『X エックス』の感想です。
予告編を観た段階で想ったのですが、近年稀にみるゴリゴリなジャンル映画でありまして。
「田舎に撮影しに行った若者たちが襲われる」という典型的なホラー映画プロットかつ、画面にあふれ出るトビー・フーパー感!
「イマドキこんなコテコテナな映画ウケるのか?」と思っていたら、海外では称賛されてるやんけ!
そんなわけで、さっそく感想です。
X エックス
あらすじ
自主制作映画を撮影するため、田舎町の農場へとやって来た若者たち。順調に撮影は進んでいきますが、農場の持ち主である老婆・パールがひそかに若者たちを見つめていました。
夜も更け、全員が寝静まったころ。行動を起こしたパールは、夫のハワードとともに若者たちに牙をむき……。
作品解説
『ミッドサマー』などで知られる、A24が製作・配給を行っているホラー映画。現在すでに続編が決まっておりまして、A24初のシリーズ作になる予定です。
監督を務めたのは『キャビンフィーバー2』のタイ・ウェスト。本作では特徴的なカメラワークを使いながらも、ホラー映画へのリスペクトを感じさせる仕上がりに。
主演はリメイク版『サスペリア』のミア・ゴス。共演は『エベレスト 3D』のマーティン・ヘンダーソン、『サムワン・グレート』のブリタニー・スノウなどなど。
『X エックス』評価
ストーリー | ★★★★☆ 4/5 |
キャスト | ★★★★☆ 4/5 |
演出 | ★★★★☆ 4/5 |
映像 | ★★★★☆ 4/5 |
総合評価 ★ 7/10
「一級品のジャンル映画だったね」
賞レースに絡むような映画ではないし、万人にウケる作品でもないでしょう。
でも、ジャンル映画が好きで、特に70年代後半から80年代前半のホラー映画が好きな人には、これ以上ないご馳走でした!
ホラー映画のお約束を守るようでいて、実はめちゃくちゃ先進的なことをやっている。怖いんだけど、虚しさとか、儚さみたいな感情を胸の中に残していく。
そして最後には……! どこまでも隙がない仕上がりで、さまざまなホラー映画を通ってきた身としては、一種の到達点にも思えた作品でした。
……若干、褒めすぎたような気もするので補足しておくと、ホラー映画として単体で観るとそんなに怖くないです。
むしろホラーとは別の部分が印象に残りまして。怖さを求めている人にとっては、満足いかないかもしれません。僕は好きだけど。
※以下、『X エックス』のネタバレが含まれます。まだ鑑賞していない方はご注意を
『X エックス』感想
ババアがやべぇ
僕はほぼ前情報なく鑑賞したので、「ジジイがやべぇ」映画だと思ってました。序盤からトビー・フーパーの『悪魔のいけにえ』を模したような展開が続き、女性がジジイに襲われる映画だとばかり……
けど、やべぇのはババアでした
このババア……失礼なので老婦人としておきましょうか。この老婦人、名をパールといいまして、あの手この手で屈強な若者たちを殺害していくんですよ。途中は全裸になって主人公の布団で添い寝したりして、殺人衝動以外の部分もヤバいと来ています。
で、ババアもとい老婦人もといパールは、元軍人だとか、実は超能力が使えるとか、そんな力は持っていません。彼女の持っている武器は“不意打ち”のみ。ステルスゲームの主人公にしたいくらい、非力です。
「おい、ばあさん。家戻った方がいいんじゃないか?」と若者が心配したらグサッといきます。いつの間にか背後をとって、ピッチフォークで串刺しにしたりもします。正直、どんなに強力な武器を持っていようとも、若者たちに反撃されたらひとたまりもないでしょう。この適度な弱さが癖になって、終始彼女の一挙手一投足を目で追ってしまう。
そんなババアがいるのだから、ジジイの方はまともかと思いきや、やっぱりジジイもヤバい映画でした(笑)
ただ、ジジイのヤバさはパールに起因しているもので、彼自身はそんなにヤバい奴じゃないのかも。この夫婦は完全にパールが実権を握っていまして、ジジイの方は嫌々付き合っている印象を受けます。この絶妙な力関係も割と現代っぽい。
「結局どっちもやべえやつだった」
一方で、登場する若者たちは全員いい奴です。彼らはポルノ映画を撮影しているので、ところかまわず男女のアレコレをするわけですが、中身は全員常識人。
ひとりで困っているジジイがいれば助けるし、ババアが徘徊していれば家に戻そうとする。「うちのおばあちゃんも徘徊して大変だったのよ~」と、いかにもチャラそうなガールが言うもんですから、ギャップ萌えしたりもします。……だから死ぬわけですが。
これで若者たちがお年寄りを敬わない不届き者ばかりだったら、パールは一発でKOされてますね。
そんなわけで、優しい若者たち×殺人老夫婦という、世にも奇妙なコラボレーションが楽しめるホラー映画であることは間違いない!
ホラー映画を愛する者たちへ
本作は過去のホラー映画にオマージュを捧げたシーンも多くあります。そもそも作品自体が『悪魔のいけにえ』を手掛けた、トビー・フーパーの香ばしい匂いがプンプンするわけですが、それだけじゃありません。
まず舞台がテキサス州である点。『テキサス・チェーンソー(悪魔のいけにえの原題)』とタイトルがつけられたように、ホラー映画の中では舞台に選ばれがち。とにかく田舎って怖いんでしょうね。アメリカでも日本でも、そこは変わらないと思います。
そしてこの農場。ワニが住み着いております。70年代ホラー映画でワニと言えば、同じくトビー・フーパー監督の『悪魔の沼』でしょう。本作ではタイミングよくワニに食い殺されるシーンもあったりして、「どうしてもこれはやりたいんだ!」という監督の意気込みが感じられます。
映画中盤、若者のひとりがセリフの中でヒッチコックの『サイコ』を引用しますが、その直後にシャワーシーンが。「絶対これカーテンの向こうから襲ってくるでしょ……!」と思っていたら、特になにも起きませんでした。おそらく意図的に『サイコ』と同じシチュエーションを作り出した、ミスリードのシーンだったのでしょう。
『サイコ』関連でいうと、本作にも強烈な印象を残すスクリーム・ガールが登場。フライヤーなどにも使用されている、ロレインが叫ぶシーンですね。
映画終盤には、キューブリックの『シャイニング』オマージュのシーンが。もういたるところで使われていて、ネタにすらなっている場面ですが、本作ではロレインが逃げるためにドアを突き破るシーンで使われていました。ジャックもカギを開けようとして手を切られたけど、ロレインもジジイに手を潰されてましたね。
ラストではマキシーンが自ら車を運転して農場を脱出しましたが、『悪魔のいけにえ』では主人公がトラックの荷台に乗って脱出しています。最新作の『レザーフェイス リターンズ』でも自動運転車に乗って脱出していて、どうしても主人公に車を運転させたくない様子。ここが70年代ホラーと決定的に異なると思っていて、強烈にリスペクトしながらも、「ここだけは違うぜ!」と明確な相違を見せたシーンだと思う。
マキシーンとパール
パールは若さに強烈な憧れを抱いていました。そして、マキシーンに対し「あなたもいつかはこうなる」と忠告。パールはそのまま頭を潰され、マキシーンとは決別しますが、ラストにとっておきのサプライズが。
実はパールを演じていたのは、マキシーンを演じていたミア・ゴスでした。まさかの一人二役。確かにパールは特殊メイク感があって、一種のモンスターとして見ていましたが、そこが一緒とは……。
この展開で改めて思うのは、ふたりは表裏一体の関係として描かれていたのだなと。
今は若く、美しく、性に関しても充実しているマキシーンも、一歩ずつ確実にパールに近づいています。老いを止めることはできないから、いつまでも若さが続くことはない。マキシーンもいつかはパールのように老いていき、若者たちを憧れの目で見つめる日が来るのかも。
「あんたのようにはならない」と彼女は言っていましたが、エンドロールで二人が同一人物だと知ると、その先の未来が見えてくるようでゾッとします。
「意味のあるキャスティングだったね」
ちなみに続編はパールの若いころを描くようで。もちろん、演じているのはミア・ゴスです。3作目はどうなるかわかりませんが、現代を舞台にして、パール化したマキシーンとか出てきたらヤバい映画になりそう。
あと、個人的に感情を揺さぶられたのが、本作は意外にも老人たちの欲求不満が描かれていたこと。子どもから大人になり出来ることが大幅に増えたけれど、老いていくと徐々にできないことも増えていく。そんな切ない現実が、ありありと描かれていて、ちょっと人生の儚さを感じてしまったりも。
セックスも仕事もスポーツも、出来るうちにやっておいた方がいいのかもしれないな。
……そんなことを書いてみる引きこもりでした。
最後に
ホラー映画は安泰だ!
まだまだ良い作品が生まれてきそうだし、アリ・アスターやジョーダン・ピールなどなど、注目の監督も続々出てきているし。
今後も楽しみに待ちますか。
以上。
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