映画『ウエストサイドストーリー』ネタバレ感想 リメイクされてもダメなとこはダメ

1961年に公開された『ウエスト・サイド物語』は誰もが知る超名作ミュージカル映画なのですが、初めて観たとき「なんかおかしな話だな~」と思っちゃったんですよね。

名シーンの良さは理解できるけど、ストーリーに関してはツッコミどころが多すぎるなと。

けれども、今回はスピルバーグ監督による『ウエスト・サイド・ストーリー』ということで。

原作は同じで、ほぼリメイクといった形の作品なんですが、ストーリーうんぬんよりもスピルバーグらしい迫力あるミュージカルシーンに期待して、鑑賞して参りました!

ウエスト・サイド・ストーリー

あらすじ

1950年代のニューヨーク。マンハッタンのウエスト・サイドには、夢や成功を求めて世界中から多くの移民が集まっていた。社会の分断の中で差別や貧困に直面した若者たちは同胞の仲間と集団をつくり、各グループは対立しあう。特にポーランド系移民の「ジェッツ」とプエルトリコ系移民の「シャークス」は激しく敵対していた。そんな中、ジェッツの元リーダーであるトニーは、シャークスのリーダーの妹マリアと運命的な恋に落ちる。ふたりの禁断の愛は、多くの人々の運命を変えていく。

映画.comより抜粋

キャスト

主人公のトニーを演じるのは、『ベイビードライバー』でおなじみのアンセル・エルゴート
いまいちギャングや不良を演じるイメージがつきませんが、トニーは更生している設定なんで、少しくらい真面目っぽさがあってもいいのかも。

ヒロインは今作が映画デビューとなるレイチェル・ゼグラーが演じています。
彼女はディズニーの実写版『白雪姫』で主役を演じることが確定している女優で、今後の活躍に期待できる方ですかね。

その他のキャストは、アリアナ・デボーズ(オスカーノミネート)、デヴィッド・アルヴァレス、ブライアン・ダーシー・ジェームズなどなど。

61年版にアニータ役で出演していたリタ・モレノは、若者たちをサポートする大人・ヴァレンティナ(61年版ではドク)役として出演しています。

ウエストサイドストーリーの感想

スルメ的評価

ストーリー★★☆☆☆ 2/5
キャスト★★★☆☆ 3/5
音楽★★★★☆ 4/5

総合評価 ★6/10

良作ミュージカル映画ではある

61年版を初めて観たときから発信できずに思っていたことがあるので、その点についても詳しく語りたいところなんですが、まずは全体的な印象から少し。

ストーリーはほぼ同じなのに、ここまで印象が違うか!

前作は舞台の上で物語が進行しているようで、すごく閉塞的な印象を受けたんですよね。カメラには映らないけれど、セットの壁が見えてしまうような、50~60年代ミュージカル特有の閉鎖感をこれでもかというくらい感じた映画でした。

けれども、今作は室内にいても空間的な奥行きを感じるし、61年版と比べると開放的な印象。ラストの決闘シーンも室内だったし、割と狭い場所でのシーンが多いんですけどね。そのせいか、古臭さはあまり感じず、60年代の雰囲気を踏襲しながらも現代に合うミュージカル映画になっていたかなと。

 

あと、今作の方が明確に上だと感じたのが、オープニング。

61年版はクレジットが出るわけではないのに、オープニングがとにかく長かった。ただ色が変わっていくだけの映像を数分間見せられるという、現代映画ではなかなか考えられないオープニングだったんですよね。

意味があってやっていることなのでしょうが、「さぁ!映画を観よう!」とスクリーンの前に座ったのに、本編がなかなか始まらないのは苦しさすら感じる人もいるでしょう。

そんな61年版とは異なり、今作は廃れつつある街を映し出し、ジェッツが登場するというスピーディーかつスムーズなオープニングでした。

僕はミュージカル映画は芸術性よりも娯楽性重視で作ってほしいと思ってるタイプなんで、出だしからスピルバーグらしいオープニングを魅せてくれてかなり気持ちが弾みましたね。

そんなワケで、同じミュージカルを基にした映画だけど、61年版とは結構印象が違う作品になっていました。

 

そして、ストーリーとしてもですね、皮肉にもタイムリーになっているかなと。

今作はニューヨークのスラムを舞台に、プエルトリコ移民と白人たちとの争いがメインで進行していきます。両者同じ国に住んでいるのに、絶対に相容れない関係なんですね。

これってまさに、今の分断されてしまったアメリカと繋がってくるわけで。ストーリーは60年以上前からある普遍的なものなのに、悪い意味で時代に合ってしまった作品なのです。

そういった点も踏まえると、ちょっと深い見かたができるんじゃないかなと。

とはいっても、私が好きなのは前半部分だけですがw
後半からはキャラクターたちの行動が全然理解できないし、感動もどこかへ遠のいていきました。

キャラクターたちの行動が疑問だらけ

ここから先は61年版と共通する話です。せっかくの機会なんで、ずっと前から思っていたことを吐き出させてもらいます。

 

私が前から不満に思っているのは、決闘シーン以降の展開です。

つまり、プエルトリコ系と白人たちの架け橋になるはずだったトニーが、なにを思ったか愛しのマリアの兄・ベルナルドを殺すという展開ですね。

リフが殺され、絶望と怒りの中で、その矛先がベルナルドに向かうのはわかります。自分とマリアとの仲を認めようとしない、恋にとって障害になる相手ですからね。

けれども、「僕は刑務所で更生した」「あと1歩で人を殺すと思うと恐くなった」と語っておきながら、いとも簡単にナイフを突き立てられるのはおかしいよ。しかも、愛する人の兄だぜ?

その後、マリアの家に侵入し、みずから罪を告白。

マリア「あなたは人殺しよ!」

トニー「弾みで…」

弾みって……

弾みで人を殺すって、絶対更生してないじゃん。普通は「マリアの兄だし」「殺したら刑務所に…」とか考えて躊躇するはずなんだけど、その思考がまずない。

100歩譲って、ここも良しとしましょう。トニーは自分の怒りを抑えることもできず、後先考えず人を殺してしまう悪いヤツだったと。これはいい。

でも、その後。マリアがいとも簡単にトニーを許してしまうのが理解できません。「愛してる」という曖昧な言葉と、圧倒的な歌声で疑問をねじ伏せている感じがする。

僕は人の感情ってそんなに簡単じゃない。ベルナルドも善人ではないけど、トニーは兄の仇なわけだし。ここまでトニーやマリアの内面を描いてきて、歌で押し切るのはありえない。

その後も恋人をトニーに殺されたアニータがやってきて、マリアに正論をぶちまけます。「アイツは人を殺すような奴なのよ」「どうせ一緒になっても苦労するわ」と観客も納得の言葉を語るのですが、これもマリアの歌で押し切られると

マリアがトニーを想う気持ちは本物なのでしょう。しかし、客観的に見ると後先考えず同じ過ちを繰り返し、殺人まで犯してしまったトニーが本気だったとは到底思えない。ベルナルドがトニーに放った「お前はプエルトリコ人と付き合って箔をつけたいだけだ」の言葉の方が真実に思えてきちゃうのよね。

 

シーンが飛んでトニーが死ぬ場面も目の前に仇がいるのに、いかにも台本臭いセリフを言ったりする。ラストのマリアの演説は61年版でも台本感が強かったけど、もう少し何とかならなかったのかな。

そんなわけで、今作がということではなく、「ウエストサイドストーリー」という作品自体にかなり多くの疑問を感じてきた次第でございます。

キャストについて

最後にキャストについて少し。

個人的に61年版よりも良かったのは、 アニータ役のアリアナ・デボーズと、チノ役のジョシュ・アンドレスのふたり。特にチノは大きく出番増えているし、ラストの立ち尽くしているときの演技とか、かなり好きでした。

ドクも女性になっていたことで、アニータとのシーンや、ジェッツに吐き捨てた言葉のシーンがさらに重く受け止められたかなと。

レイチェル・ゼグラーも今作で初めて演技を観ましたが、かなりヒロイン力が高い女優でしたね。これはディズニープリンセスも楽しみになったりもするのですが、公開前から色々物議になっているから不安なところ。

 

残念だったのは、トニーを演じたアンセル・エルゴート

私が思うトニーって感情の起伏がシンプルというか、いい意味でも悪い意味でも単純な人間だと思うんですよ。すぐに手を出しちゃうし、マリアのことも一直線で好きになっちゃう人。

でも、今作のトニーは変に奥ゆかしさがあって、なに考えているか分からないキャラクターに見えてしまいました。だからマリアと一緒のシーンでも、喧嘩のシーンでもちょっと怖い。

『ベイビードライバー』ではこの演技が映えていたけれども、『ウエスト・サイド・ストーリー』にはマッチしていないなというのが正直なところ。

全体的に考えるとベルナルドやリフも61年版の方が良かったかな。

最後に

ミュージカル映画大好きで、特にジーン・ケリーやフレッド・アステアの映画を愛好しているのですが、やっぱり『ウエストサイド物語』は好きになれないな。

年齢を重ねていけば感性が変わるかもしれないけど、今の私には主人公たちの行動の意味が理解できないね。

 

実はこの映画、来月の3月30日にもうDisney+で配信されちゃうんですよね。

私としてはテレビよりも、ぜひ映画館で観てほしいと思うところなんですが…。コロナ禍の現在は難しいところ。

 

以上。


2022年公開映画のレビュー

関連記事

『バイオハザード ウェルカム・トゥ・ラクーンシティ』は、ミラ・ジョヴォヴィッチが主演を務めたシリーズをリセットし、新たに原作ゲームのストーリーを描いていく作品だ。キャラクターも多くなるし、やることも満載だしで、正直不安しかなかったが[…]

関連記事

『スパイダーマン ノーウェイホーム』の最速鑑賞に行ってきた。とにかく素晴らしいの一言だったし、始まったばかりだが2022年の代表作となることは間違いないだろう。深夜に鑑賞したが、興奮で目と脳が冴えまくっているため今のうちに感[…]