映画『私ときどきレッサーパンダ』評価と感想(ネタバレ) 自分が自分になった瞬間を切り取るピクサー最新作

スルメ
どーも、スルメです

今回はディズニープラス配信となったピクサー新作『私ときどきレッサーパンダ』の感想を書いていきます。

ちょっと前まで劇場でも予告がかかっていたのですが、配信オンリーになってしまいましたね……。

これでピクサー映画は3本連続配信。僕はピクサー大好きなので、映画館で観られないのは悲しくもある。けれど、繰り返し観られる配信も捨てがたいし……。

しかも、『私ときどきレッサーパンダ』は予告編を観るだけでも挑戦的な映画になっていることは明らか。落ち着いたらでいいから、『ソウルフルワールド』も含め、劇場でかけてくれると嬉しいです。

そんな願望を書いたところで、感想に参ります!

私ときどきレッサーパンダ

あらすじ

舞台は1990年代のカナダ・トロントのチャイナタウン。そこに暮らすメイは伝統を重んじる家庭に生まれ、両親を敬い、母親の期待に応えようと頑張る13歳の女の子。
でも一方で、親には理解されないアイドルや流行りの音楽も大好き。恋をしたり、友達とハメを外して遊んだり、やりたいことがたくさんある側面も持っていた。そんな、母親の前ではいつも “マジメで頑張り屋”のメイは、ある出来事をきっかけに本当の自分を見失い、感情をコントロールできなくなってしまう。悩み込んだまま眠りについたメイが翌朝に目を覚ますと…なんと、レッサーパンダになってしまった!
この突然の変身に隠された、メイも知らない驚きの〈秘密〉とは?一体どうすれば、メイは元の人間の姿に戻ることができるのか?ありのままの自分を受け入れてくれる友人。メイを愛しているのに、その思いがうまく伝わらずお互いの心がすれ違う母親。様々な人との関係を通してメイが見つけた、本当の自分とは――。

ディズニープラスより抜粋

作品解説

今作はカナダのトロントを舞台に、アジア系の少女・メイを主人公にした作品です。

予告だけでも宮崎アニメっぽさが漂っていますが、本編はさらに凄いことになっています。

監督を務めたのは、短編『bao』を手掛けた、ドミー・シー。今作が長編デビューですが、その才能を存分に感じさせる作品となっております。

そして、この映画は監督をはじめ、プロデューサーやデザイナーなど、メインスタッフのほとんどが女性です。その影響もあってか、過去のピクサー作品以上にエネルギッシュな映画になっているんですよね。

メイの声優には今作が映画デビュー作となる、ロザリー・チアンを起用。

母親のミン役は『ラーヤと龍の王国』にも出演した、 サンドラ・オーが演じています。毒親の一言では表現できない、いろいろな感情が入り混じったミンを若干のコメディ演技を交えながら演じておりました。

ディズニープラスで視聴する

Disney+ (ディズニープラス)

今回レビューする『私ときどきレッサーパンダ』はDisney+(ディズニープラス)にて見放題で配信しています。

Disney+(ディズニープラス)ではほとんどのディズニー作品やマーベル&スターウォーズなどの作品を見放題で配信中。

今作のようなオリジナル映画やドラマなど、ここでしか観られない作品も多くあります。

 

感想

スルメ的評価

ストーリー★★★★☆ 4/5
キャスト★★★★☆ 4/5
演出★★★★★ 5/5
映像★★★★★ 5/5

総合評価 ★7/10

 

「斬新だけど親しみのある映画だったなぁ」


最近は『フェイフェイと月の冒険』や『ラーヤと龍の王国』、実写では『ムーラン』に『シャン・チー』など、中国文化を導入したハリウッド映画が多く製作されました。

『私ときどきレッサーパンダ』はその中でも群を抜いて完成度の高い作品だと、僕は思うのです。

大人に成長していくことの身体的・精神的な変化を、レッサーパンダという形で表現しているわけですが、それだけじゃない。

一見大人向きにすら思える内容を、あえてティーン世代が楽しめるよう演出した、ピクサー映画の中でも特別な作品です。

よりストレートに、より強く、メイと同じ年代の子どもたちに届く作品になっています。

 

僕は!こういう映画こそ劇場でかけるべきだと思うんだ!!

なんか作品に関わったわけじゃないけど、悔しい気分になるという(笑)

そんなところを踏まえながら、感想を書いていきます。

 

※ここから先は『私ときどきレッサーパンダ』のネタバレを含んでいます

 

この映画に対する評価を直感で教えてください

 

これは監督の実体験か?

まず最初にここを語っておきたい。

メイはドミー・シーそのものなのか?

まず、監督のドミー・シーは1989年生まれの中国系カナダ人です。幼いときにカナダに移住し、中国の伝統を重んじる母親のもとで育っています。これだけでもメイとの共通点が多いのですが、映画の舞台である2002年にドミー・シーは13歳でした。ここもメイと同じですね。

これはメイキング情報ですが、ドミー・シーはアニメのファンアートを書いてネットにアップしていた人です。メイが劇中で描いたような、妄想を絵にした黒歴史的なノートも実在していて、オタクな部分含めてまさにメイそのものといった感じ。

少なくとも、今作にドミー・シーの実体験が入れられているのは間違いないでしょう。

 

映画を見ればわかりますが、彼女はジブリから強く影響を受けています。

劇中でも「ネコバスじゃん!」ってくらいトトロに似ているシーンがありましたし、メイの誇張されている顔の動きなんて宮崎アニメの影響をガンガン感じる。個人的には『アーヤと魔女』はこんな映画を目指していたんじゃないか?と思うくらいには、ジブリエッセンスの効いた作品でした。(主人公の名前がメイなのは偶然?)

そして、セーラームーンをはじめ、日本アニメや漫画(COMICではなくMANGA)に精通している監督でもあるんですよ。

変身する際のエフェクトとか、ラストの巨大レッサーVSメイとか、いかにも少年漫画的な演出が使われていました。いわゆる半妖の設定とかも、高橋留美子(おもに犬夜叉)っぽさを感じたりする。

「ここまでアニメの影響が強いピクサーって初かも」

『トイ・ストーリー3』にトトロが出ていたり、ラセターと宮崎駿の友好があったりと、ピクサーはディズニースタジオ以上に日本アニメの影響を受けたスタジオだったと思う。

でも、ここまであからさまな演出を使ってくるとは……!

しかも、「日本のファンに向けたサービス」じゃないんですよ!監督の中に溶け込んで一体となっていたアニメの要素が、作品の中にもこぼれてしまったって感じで、本当にアニメが好きなことが伝わってくる。気持ちいいくらいの影響の受け方ですし、自分の中でかみ砕いで、作品の中に落とし込んでいるのが理解できるからこそ、この映画はこんなにも面白いんだ。

 

いろいろ語りましたが、つまるところ、今作はドミー・シーの作家性が強く打ち出た作品であると。

監督がどんな人なのかを知っているだけで、結構見かたが変わったりすると思うので、メイキングは必見です。

成長の話

「結局レッサーパンダってなんだったの?」ってなると、シンプルだけど、やっぱりメイの中の大人が具現化した存在だったのよね。

メイは親の言うことを聞いて、親の期待に応えて、親の望むとおりに生きてきました。子どものうちは正直それでいいと思う。例外はあるかもしれないけど、親の言うことを聞くことが一番大事だったりするし。

けど、小学校を卒業し、友達と過ごす時間が増えていくと、そうはいかない。子どもにも自分だけの世界が出来上がるし、そこに親が入りこむ隙間はたぶんない。親には話せないことが増えてきて、自分と親は別の人間だということに気がついたあたりから、親は子供にとっての一番ではなくなります。

そんなこと、きっと誰しも経験あるじゃないですか?

劇中では月経の話が出てきたりして、女性の方が共感できる話なんだろうけど、男の子にも共感できるポイントがいっぱいある。親の話が聞きたくなくて、本当は好きなんだけど、どうしようもなくイライラするとき誰にでもあるよね?

浅い見方かもだけど、レッサーパンダはパンクロックでいうところの「初期衝動」というか、湧き上がる止められない色んなことを映像として表現した存在です。

「思い出すと恥ずかしくなっちゃうようなアレだね」

と、それっぽいことを書いてみたけれど、僕が凄いと思っているのはそこじゃない。

この映画自体が「ティーン向け」に作られているっていうところに、今作の凄さが詰まってる!

これまでも思春期における通過儀礼的なものを描いた作品は多くありました。でも、ほとんどの作品は「思春期を乗り越えた人たち」に向けられていたんですよ。その場で悩んでいたり、モヤモヤしたり、イライラしてる人を救う作品っ少ないと思うんですよ。

「確かにあの時こんな感じだった~」じゃなくて、「今まさにこの状況だ!」って映画は限られているよね。

 

『スタンド・バイ・ミー』を初めて観た中学生の時、僕はコーディたちと同じくらいの年齢でしたが、あまり響きませんでした。でも、大人になって再度鑑賞すると、二度と戻ってこないあの時の感情がブワッと湧き上がってくる。そういう青春映画たくさんあるじゃないですか?

最近のピクサー映画、特に『ソウルフルワールド』や『インサイドヘッド』とかもその手の作品だと思っていて。つまり、子どもは子ども目線で楽しめるし、大人は大人として楽しめる。楽しいことには変わりないけど、受ける印象が全然違って、年代によって違うメッセージを受け取れる……的な。

でも、今作は違います。

ティーン世代もそこを超えた大人たちも、同じベクトルで楽しめる映画。いや、むしろティーン世代にこそ響く映画といえるかもしれない。

ある意味では『トイ・ストーリー(1作目)』や『モンスターズインク』の時代のピクサーに回帰した作品といっていい。

思い返せば『トイ・ストーリー3』以降、どちらかといえば大人の方が楽しめるんじゃないか?と思うピクサー作ばかりでした。まだ観てないけど、続く『バス・ライトイヤー』もそっち方向の映画に思える。もちろん、それも好きだけど、ここで新たな方向性を生み出してくれたのが何より感動する。

こういう映画こそ劇場でかけるべきでした。メイキングでも語られていたけど、アートや映画にはそれだけの力がある。「誰の心にも響く」とは安易に言えませんが、少なくとも僕は中3くらいの時にこの映画を劇場で見たかったな。

斜に構えすぎて、何も感じない可能性もあるけど(笑)

最後に

まとめると、

挑戦的な映画にも見えるけど、実はピクサー映画の原点に回帰していた映画でした!

 

母親のことについても書きたかったけれど、長くなりそうなのでこの辺で。

それにしても笑っちゃうくらいの母親でしたね(笑)

僕はコメディシーンとして受け取れたし、メイが意外と普通に生活しているから、そこまで重くは考えなかったけど……。人によっては全然ダメなこともあるかもです。

ただ、メイをからかってたアイツが、平気で仲間にいるのは無理だな。母親なら理解できるし、「親だから」でなんとかなるけど、アイツを許すのはダメでしょ。

あと、根本的な話として、レッサーパンダってかわいいか?(笑)

僕は生き物感が強くて怖いですけどね。触って暖かかったりすると、もっと怖くなる。

 

最後にちょっと文句を書きましたが、全体的には大好きな映画でした!ぜひリバイバル上映してくれ!

ピクサーの次回作は『バズ・ライトイヤー』。こればっかりは映画館で観たい!

 

ピクサー全作のランキングを更新したので、興味があったら是非。

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以上。


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