
完全に観るタイミングを失っていた『チック、チック…ブーン!』をやっとこさ鑑賞できたので、感想を少し。
最初に書いておくと、僕は現在26歳。主人公のジョナサン・ラーソンと同じく、30歳になることに対して若干の焦りを感じているお年頃です。
年齢に関しても色々思うところがあったので、個人的な解釈も織り交ぜつつ、感想を書いていけたらなと思います。
チック、チック…ブーン!
あらすじ
一流のミュージカル作曲家を目指す青年。30歳に向けてカウントダウンが始まるなか、恋や友情の悩み、最高の作品を作りたいという焦りに直面してゆく。
作品解説
今作は90年代にアメリカのミュージカル業界で活躍し、『RENT』などを手掛けたジョナサン・ラーソンの半生を描いた伝記映画です。原作者はラーソン本人で、自伝的なミュージカルでした。
しかし、ラーソンは96年に35歳の若さで死去。『RENT』は大成功を収めたのですが、その成功を見ないままこの世を去っているんですね。
今作のストーリーはラーソンの下積み時代を扱っていて、彼の運命を知っているとより泣けてくる作品となっています。
そんな今作の監督を務めたのは、現在ミュージカル界で大活躍しているリン=マニュエル・ミランダ。近年は映画好きの間でも知られる名前となっていて、有名どころでは『ハミルトン』や『イン・ザ・ハイツ』などを手掛けた方です。
現在大活躍中のミランダが、ミュージカル界の伝説ジョナサン・ラーソンの伝記映画を撮る。しかも今作が初監督作品!
なんだかワクワクしますね。僕だけ?
キャストの方を紹介しますと、
主演は『アメイジングスパイダーマン』のアンドリュー・ガーフィールド。今作の演技でアカデミー賞主演男優賞にノミネートされましたし、今年はなにかと注目される年になるのではないかと。
ヒロインは『ジェクシー! スマホを変えただけなのに』のアレクサンドラ・シップ。新しい『X-MEN』映画でストームを演じていた女優さんですね。
その他のキャストは、ヴァネッサ・ハジェンズ、ロビン・デ・ヘスス、ジョシュア・ヘンリーなどなど。
感想
スルメ的評価
ストーリー | ★★★★★ 5/5 |
キャスト | ★★★★☆ 4/5 |
演出 | ★★★★☆ 4/5 |
音楽 | ★★★★☆ 4/5 |
総合評価 ★8/10
「この年齢で観られて本当に良かった…!」
僕もそろそろ30歳。もういい歳した大人だし、それっぽく生きてきたけど、このままでいいのか?
そんな答えの出ない問答を繰り返している今日この頃。
年齢以外でラーソンとの共通点はないけれど、この年齢で観ることができて本当によかったなと思える映画でした!
音楽や演出も言うことなしだったけど、やっぱりストーリーが刺さる!
※以下は映画の一部ネタバレが含まれています!
30歳という謎の壁
主人公のジョナサン・ラーソンは、30代を目前にした駆け出し作曲家。作っているミュージカルも特に成果が出せず、あまり認められないまま、時間だけが過ぎていく……。
同じようにミュージカル業界を夢見ていた親友は大手企業に就職し、周囲の人間たちもだんだんと夢を追わず現実を見始める。なのに自分は夢を追い、アルバイトに明け暮れる日々。
本当にこのままでいいのだろうか?
漠然としている疑問だけど、30歳までには何か成し遂げなきゃいけなくて。そんな焦りがラーソンを襲っていくのが前半の流れ。
アメリカだけじゃないと思うんですけど、20代までは遊んでいてもいいというか、フラフラしてても大丈夫みたいな風潮ありますよね。あくまでも準備期間で、転職したり起業してみたり、社会勉強する時間もたっぷりある。
けれども、20代後半ぐらいから周囲の友達が結婚しはじめ、就職先でもそこそこの地位を確立していくと。
そして30歳には身を固めるか、人生の方向性を決めなきゃいけない。そんな誰が決めたわけでもない風潮、日本にもあるよね?
冒頭にも書いた通り、僕も現在26歳で、これといって先の人生が決まっていない状態です。一応、仕事はあるけれど、やりたいこともあるし、このままでいいわけがない!
でも、30歳まであと5年ほど。「さぁ、焦らなきゃいけないぞ!」というのが、数年前から心のどこかにあったりします。
「ラーソンに共感せずにはいられないぜ……」
人間どんな生き方をしたって生きてりゃそれでいい。
そんなことは頭ではわかっているけど、生きているからには何かをしたい。頭の中で時計の音が迫ってくる。30歳、30歳までには……!
「なぜ30歳に焦りを感じるのか?」と以前考えたことがあるのですが、30歳って物語構成の「序・破・急」でいうところの破に移行する時期なのではないかと。
カッコいいこと言っちゃうと、「人生という物語の山場が始まるところ」なんですよ。
だから「まだ幕も開いてないのに、山場行っちゃうの?」ってことに焦ってしまう。
ラーソンだってミュージカル業界で成功どころか、スタートすら切れていませんでした。あのソンドハイムは『ウエストサイド物語』を書き上げていたのに!
彼には夢をあきらめるという選択肢もあって、むしろそっちの方が楽な道かもしれない。けれども、作曲家への道を捨てることはどうしてもできません。
その不器用ながらもひたむきに打ちこんでいく姿は、僕の中にあった30歳への焦りを少し和らげてくれました。
30の壁なんて錯覚だ!
映画の中ではひたすら30歳に焦りを重ねていたラーソンですが、最後にはあることに気がつきます。
30歳になったからといって人生が終わるわけじゃない
非常にシンプルな答えだし、小学生でもわかる問題ですが、焦りで左右が見えなくなっている人にはパワフルな答えだよね。年齢や時間なんて結局は人間が勝手に作っている想像の産物で、人間がいなきゃ時間は存在しません。ただ周囲に合わせて自分の中で天井を決めてしまっているだけだと。
僕もラーソンと同じく焦りを感じているけど、30歳になったからってたぶん何も起きない。肉体的な衰えを感じるくらいで、突然大人になるわけでも収入が増えるわけでもない。
そう考えると、別に焦る必要はないのかなと。ただやるべきことを積み重ねていくだけ。
「なんてシンプルなんだ!」
ただ、今作が「そんなに焦ることないよね」って単純な話に着陸するわけがない。
なぜなら実際のジョナサン・ラーソンは35歳の若さでこの世を去っているからです。この絶対に動かすことのできない事実が、今作をさらに説得力のある作品にしていると思う。
30歳に対して焦ることはないけど、人間に与えられた時間は有限です。30歳うんぬんよりも、残された時間に対してどう向き合うかを描いた作品になっていました。
演出的な魅力について
ここまで僕の考えを書くだけになっていましたが、演出の魅力についても少し。
今作は舞台に立っているラーソンの独白で物語が進行していく構成になっています。現実で起きているトラブルと、舞台で披露されるミュージカルがリンクしていく、まさにラーソンらしい作品になっているわけです。
これもミュージカル出身のリン=マニュエル・ミランダの手腕と言うべきなのかな。
正直、アカデミー賞監督賞にノミネートすらされなかったのが意外なほど、初監督作品にして洗練された映画になっていました。
あとは、プールに音符が浮かんでくる描写や、カレッサとスーザンを交互に映していくシーンなどなど、現実とラーソンの想像力が交錯するシーンはどれも素晴らしかった。
そんな感じで感想を終わらせていただきます。
以上。