映画『TANG タング』ネタバレ感想 ポンコツロボットは優しい持ち主の夢を見る

スルメ
どーも、スルメです

『TANG タング』観てきました。

ポンコツロボットが、ポンコツな大人と旅をするSF・ハートフル・ロードムービーですが、映画自体もなかなかのポンコツでした。

「ロボットよりも、もっと大事なことがあるだろう?」

そんな超単純なことで主人公を叱りたくなる映画です。

乞うご期待ください。

TANG タング

評価

ストーリー★☆☆☆☆ 1/5
キャスト★★★☆☆ 3/5
演出★★☆☆☆ 2/5
映像★★★☆☆ 3/5

総合評価 ★ 3/10

 

「これはちょっと……」


藤子・F・不二雄先生は、SFを「すこし・ふしぎ」と解釈しました。

僕がそれになぞらえて、本作にSFを与えるならば、「すこし・ふなれ(不慣れ)」、もしくは「すこし・ふりょう(不良)」です。

まず、ロボットのタングがイマイチ可愛くありません。あれに耐えられた主人公に拍手です。

さらに、主人公にはポッと出てきたタングよりも大事な問題があります。

タングとの出会いをとおして、妻との関係も見直していくのかと思いきや、特に問題が一致しない「すこし・ふいっち(不一致)」な物語でもありました。

以下、感想です。

 

※映画『TANG タング』のネタバレが含まれます

 

感想

タングに惹かれない

主人公の健は、妻の絵美との間に問題を抱える、失業中の男です。そんな彼が庭に投棄されていたロボット・タングを拾い、どこかに捨てに行こうとしますが、実はタングは超高性能ロボットで……というストーリー。要するにSFです。

この世界では、人工知能がそこまで発達しておらず、人間と同じように感情を持ったロボットが開発されていません。タングが唯一感情を持つロボットであり、名のある開発者が彼を狙っているというわけ。

ただ、問題は主人公の健がそこまでロボットに愛着がない人間だということ。彼は家の中で機械が歩き回ることを拒み、家には一台のロボットもありません。それなのにタングに同情し、命をかけてまで助けようとするという、かなり違和感のあるストーリーが展開します。

 

タングが超有能で、かわいくて、健気なら理解ができるもんです。だってかわいいから。かわいいものは守りたいから。

でも、劇中のタングはかわいくない。基本的に駄々っ子で、わがままで、失敗したら寝たふりをして逃げようとする卑怯者です。これが人間の子どもならば可愛く感じるでしょうが、タングはコテコテのロボット。どんなに感情があろうと、見た目からして“物”です。これで許されるのはギャグマンガの世界だけ。

タングの事情を理解すれば同情もできますが、僕ならファーストコンタクトの時点で無理でしょう。だから、そもそも旅が始まらない。ロボットに対して抵抗のある健なら、特にダメだと思うのですが……。

「かわいく思えないの僕だけ?」

タングのかわいさについては、思うところがありますが、まぁかわいいとしましょう。

でも、「それ以上に大事なこと、目の前にあるよね?」というのが僕の意見。正直、このことが気になって、タングとの旅がほぼ頭に入ってきませんでした。

妻・絵美との関係

健は研修医でしたが、危篤状態の父を前にしてパニックに陥り、選択ができなくなってしまいます。“選択する”という行為自体がトラウマになり、当然医者への道も諦めかけており、今はほぼニート。妻の絵美に食わせてもらっていますが、家のことも何もやらない。料理はおろか、ゴミ出しも雑用もやらない、しょっぱなからイライラしかけるダメ男です。

この辺りは二宮和也さんの演技により、イライラしつつも、どこか許せてしまう主人公に落ち着いているのですが、ストーリー的には「ちょっと待てよ」と言いたくなるほど。

映画序盤で、何もしない健を前に絵美が爆発。「家から出ていけ!」と、健とタングを追い出してしまいます。普通ならちょっと頭を冷やして家に帰るか、パチンコ屋逃げ込んで景品の化粧品を持ち帰るでしょう。

しかし、健の選択はタングを新しいロボットと交換し、プレゼントすること。

……まぁ、ここまでは理解できなくもない。

でも、交換ができないとわかると、なぜかタングとともに中国は深センへと出発。壊れかけのタングを治す方法を探そうとするのです。

「絵美は放置ですか……」

これ、正直離婚の危機なんですよ。これは開始10分の観客ですら理解できるシリアスな場面なのに、健はなぜか、さっき出会ったばかりのロボットを治そうとする。

いや、ロボットの前に夫婦関係修復しろよと。タングはロボットだけど、絵美は人間なんだぜ?しかもワイフだぜ? どうして無視できるんだ。

交換できないなら、タングを預けて家に帰るべきでしょう。深センで油売ってる場合じゃない。

 

しかも、さらにショックなのが、絵美が妊娠していたと発覚する点。それを健に笑顔で報告できないまま、離婚を決意するという超かわいそうな展開です。

子ども部屋を確保するほど望んでいたのに、夫と喜びを分かち合うこともできない。それも、健には秘密にして、ひとりで産もうかと思案をしていた。

これがどんなに辛いことか。タングの場面では一切泣けなかったけど、最後の絵美の独白で不覚にも泣きそうになりました。彼女の苦しみや辛さを思うと、こっちまで辛くなる。

ここまで妻を悩ませておいて、ロボットと逃避行ですか。途端に映画のほぼすべてが薄っぺらく感じましたよ。

500歩くらい譲って、そういう家庭だとしましょう。けれども、こんなに苦しんだ絵美に割いた時間が、数分しかないのは無理です。

しかも、こんな破滅的な状況なのに、最後サラっと仲直りするんですよ。いや、無理無理。

荷造りにめちゃくちゃ時間かかっている時点で、察しましたが、どんなに健が思い直したとしても無理だって。

タングと二択

タイトルどおり、この映画はタングのお話。人間どものドラマなど、取るに足らないものだとしよう。

SF的な設定も気になるし、悪役の言動もすこしどころか、すごくふしぎですが、硬派なSFじゃないし、そこをツッコむのは野暮でしょう。

でも、健の“選択”にまつわるストーリー。これはダメ。

上記のように、健は父親の治療がトラウマになり、“選択”に対して恐怖心を抱いています。この恐怖心を克服し、ふたたび医者を目指すことがゴールになるわけですが、そこへの行きつき方がとんでもねぇ。

映画の終盤、健にふたたび究極の選択が迫られます。それがまさかの完全運勝負の二択。時限爆弾で「青を切るか?赤を切るか?」のような、運だけが運命を左右する二択が迫られます。

 

……いや、そうじゃないだろ。

そういことじゃないだろ。

 

その前に「2分の1の確立賭けるか」「タングのメモリーだけは救うか」の二択を迫られているのですが、もし2分の1で負けてタングが消滅してたら、どうするつもりだったん? 

父親のときと同じ状況が再現されたから、「今度は間違えない!」と冷静な選択を下すのか、もしくは負ける確率を潰すのかと。

なぜ2分の1の勝負に出てしまったんだ。この場面でそっち選択するのカイジか、蛇喰夢子くらいだろ。完全に自分見失ってるじゃん。

やっぱり大事なのは冷静さよりも、運ですよね。タングが庭にいた時点から、健の運の良さは始まっていたのかもしれない。

TANG タングが好きな人におすすめ

A.I.

ロボットの少年を描いた作品。この映画の主人公はアンドロイドなのですが、人間とほぼ同じ感情を持ち、人間並みに感受性豊かです。つまりタングが極限まで人間の姿に近づいた存在です。

でも、秒で捨てられます(笑) やっぱりロボットはロボット。人間は人間です。

「捨てられたロボットはどうなってしまうの?」といった、割と現実的な物語が展開します。かなりおすすめ。

エクス・マキナ

まず、この映画は子ども向けではありません。ヌード描写も多いので、家族で観たら気まずくなること間違いなし。

人間にしか見えない女性型ロボットが登場し、主人公は彼女のテストをするというストーリー。

徐々に開発者が信用できなくなり、実は裏で物凄いことが起きていた……といった話で、アクションは少な目ながら引きこまれます。

最後に

良かった部分はキャスト陣の演技と、キャスティングですかね。

結局、最後まで観られたのは二宮和也さんの演技によるものだし、ラストで泣きそうになったのは絵美役が満島ひかりさんだったから。

そして、かまいたちのお二人を、あのポジションに配したのは天才的。

これがハリウッド映画だったら、たぶんふたりを主人公にスピンオフ作られてますわ。

 

以上。