貞子の時代は終わった。
前作『貞子』を観たとき、僕は本気でそう思った。
ホラーとしてはもちろん、ネタ映画として楽しむこともできない。「映画で活躍できなくなったら、YouTuberしかない!」とネタ的に周囲に言いふらしていたのだが、まさか本当にYouTuberデビューするとは思わなかった。
もう、ホラー映画で活躍するのは無理なんじゃないか。僕以外の貞子ファンの人たちも、そんな現実を直視するしかなくなったところに、それはやってきた。
『貞子DX』
パチンコの新台としか思えないタイトルである。ST突入率100%。継続率76%。8割が10ラウンド。まさにデラックスな新台!しかもIQ200の女の子が貞子の呪いに挑むなんて、なんとも遊技台らしいキャッチーなストーリーなんだ……!
そんな絶望的な気持ちで劇場を訪れたが、予想以上に笑えた。そんな話をこれから書いていく。
※ネタバレが含まれています
貞子DX
あらすじ
呪いのビデオを見た者が24時間後に死亡する事件が全国各地で続発。IQ200の天才大学院生・一条文華は、テレビ番組で共演した人気霊媒師・Kenshinから事件の解明を挑まれる。呪いがSNSで拡散すれば人類は滅亡すると主張するKenshinに対し、文華は呪いなどあり得ないと断言。そんな彼女のもとに、興味本位でビデオを見てしまった妹・双葉から助けを求める電話が入る。「すべては科学的に説明可能」と考える文華は、自称占い師の前田王司や謎の協力者・感電ロイドとともに、貞子の呪いの謎を解き明かすべく奔走する。
映画.comより抜粋
感想
正直な話、この映画は1ミリも怖くない。
こんなことを書くと「いや、俺は怖かったね」とか、「強がってんじゃねぇよ」とかお叱りを受けるので、あくまでも“個人の感想”としておくが、『貞子DX』は本当に怖くなかった。
そもそもこの映画は“ホラー”として作られたのだろうか? YouTuberデビューした貞子を、もはや怖く描く気はないのではないか。この映画はホラーというよりも、貞子というキャラクターを使ったエンターテインメント作品である。「元々はホラー映画なのにこれでいいのか?」と思ったりもするが、実際少しのホラー要素はあった『貞子』よりはマシだ。
この映画について言える確かなことは、少なくとも話のタネにはなるということ。そして2022年に合わせた作品に進化しているということだ。
本作はIQ200という設定から笑わせてくれる。そもそも貞子の呪いは頭脳や経験や知識や、その他もろもろが通用しない。「いろいろ頑張ったけど、最後は死にました」パターンも多いのが特徴だ。
しかし、本作は主人公並びにサブキャラクターたちも死なない。最小限の犠牲者(悪い奴は死んだが)で、貞子を攻略してしまった。
もはやIQとか関係なくね?と思ったりもするが、とにかくハッピーエンドで終わった数少ない貞子映画といえる。
ラストに関しても、まさかの大団円。「貞子を倒す」ことすら放棄し、呪いの免疫をつけるという方法で貞子との共存を選んだ。「呪いなんて怖くない!」モードに入ってしまったのだ。
この映画は『リング』および『貞子』シリーズの転換点である。呪いを克服した人々が貞子を恐れることは難しい。そもそも観客が貞子を恐れなくなったのだ。映画の登場人物たちも、貞子を克服しても不思議ではない。
僕たちの貞子は変わってしまった。しかし、当初とは異なる形で人々に愛されてはいるようだ。
そんな貞子を僕たちは受け入れていかなければならない。複雑ではあるが、貞子が日本を代表するコメディエンヌになってくれることを、陰ながら応援している。