実写版『ピノキオ(2022)』評価と感想(ネタバレ) おりこうさんになったピノキオに魅力なし

アニメ版『ピノキオ』を初めて観たとき、僕はただただ怖かった。

クジラは当然ながら、冒頭の魂が抜けたようなピノキオも怖い。もちろん、ロバになるシーンもトラウマ。

ディズニーランドにあるアトラクションも妙に恐いし、「ピノキオ=怖い」という図式が頭の中で完成するのも、そう難しくはありませんでした。

そんな『ピノキオ』が、近年の実写化ブームに乗り、ロバート・ゼメキス監督、トム・ハンクス主演で実写に。

……正直不安しかないです。

ピノキオ、今の時代にタバコ吸えるの? それがなきゃあ、ピノキオじゃないぜ?

ピノキオ

作品解説

ディズニーが制作した長編映画第2作目『ピノキオ』を実写化した作品。

命を手にした人形・ピノキオが、本当の人間になるために頑張る話です。最後にはクジラのお腹から、おじいさんを救い出します。有名なので、みんな知っているでしょう。

オリジナル版の一番の魅力は、なんといっても名曲たち。「ハイ・ディドゥル・ディー」や「もう糸はいらない」のみならず、ディズニー映画の冒頭で必ず流れる「星に願いを」が誕生した作品でもあります。

ただ、当時の世界情勢(第二次世界大戦中)を反映してか、そもそも原作が暗いのか、今のディズニー映画に比べるとシンプルに怖い作品です。有名な点は、映画のラストに登場するクジラでしょう。圧倒的なスケールで描き出されるその姿は、CGや特殊効果が一般的ではなかった当時の観客を驚かせたこと間違いなしです。

その他にも、子どもたちがタバコをふかしたり、今の世ならテレビ放送できないレベルの表現があるのも事実。まぁ、子どもに悪影響があるとは思いませんが、トラウマは残すでしょう。

そんな名作、もしくは問題作を、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のロバート・ゼメキスが映画化。

主演は『キャスト・アウェイ』や『フォレスト・ガンプ』でゼメキスと組んだ、トム・ハンクスです。まさに夢のタッグ。これだけで鑑賞する動機になる。

声優陣も豪華で、ジミニー・クリケットにジョセフ・ゴードン・レヴィット、ファウルフェローにキーガン・マイケル・キーなどが起用されています。

評価

ストーリー★★☆☆☆ 2/5
キャスト★★★☆☆ 3/5
演出★★☆☆☆ 2/5
映像★★★☆☆ 3/5

総合評価 ★ 3/10

 

「なかったことにできますかね?」


うーん。ラストの改変は、なんとかならなかったのか。

今回はなかったことにして、10年後くらいにもう一度やりましょう。

というか、そろそろ過去の名作を実写化していくの、やめません?

売り上げはあるのでしょうが、あまり良い選択だとは思えなくなってきたよ。

 

※以下、ネタバレあり

 

感想

そのふざけたジョークやめません?

映画冒頭、ゼペットじいさんの演技に惚れ惚れしていると、突然それがやってきました。

ゼペットの部屋にある時計を映し出すシーンで、なぜかディズニーキャラクターが総出演。トム・ハンクス繋がりでウッディから始まり、『白雪姫』『眠れる森の美女』『ロジャーラビット』エトセトラ。一気に現実に引き戻される、ドン引きするシーンでした。

「え、この映画はそういう方針でいくの?」と誰もが思うことだろう。つまり、パロディとかを前面に押し出した、コメディ調で進むのかと。

そのあとのシーンでも、ファウルフェローの「クリス・パイン(松)」のネタ(クリス・パインは『スタートレック』に出演した実在する俳優)があったり、「インフルエンサー」なる“ナウい”言葉が使われていたりと、やりたい放題。

ネタとしては寒いだけですし、そもそも『ピノキオ』の世界観に合わない。このネタをやって許されるのは、青いウィル・スミスくらいです。

CGの世界に放り込まれたトム・ハンクス

この映画に対する、大きな違和感は、作品の登場人物のほとんどがCGだということ。

ピノキオは当然ながら、猫のフィガロ、金魚のクレオ、ジミニー・クリケット、ファウルフェロー、モンストロ、ロバ、操り人形……。この辺りはすべてCGです。これらが『ライオンキング』ほど現実に即しておらず、デフォルメされた姿で登場するので、どちらかといえば『ロジャーラビット』の世界なんですよね。

そのゴリゴリCGキャラクターたちの中に、トム・ハンクスが放り込まれているような、違和感たっぷりの画が全編とおして続きます。正直、かなりキツイです。おとぎ話のような世界を表現したかったのでしょうが、前述したナンセンスジョークもあり、ごった煮感が否めない。

この部分が本作きってのマイナスポイント。こんなのを見せられるなら、実写化する必要はなかった。せめて、CGアニメーションで作り直すくらいで十分でした。

ラスト

そんなダメダメな展開に追い打ちをかけるのが、ラストの展開。オリジナル版の『ピノキオ』では、ピノキオがブルーフェアリーによって人間の姿になり、めでたしめでたしで終わります。

それが、まさか、この映画では、人間にならない!!

「人間というのは外見だけではない。良心が大切なのだ」

そんなことをジミニー・クリケットが言いだしそうだったけど、そうじゃないだろと。ピノキオが良心を獲得し、身も心も人間になったで終わっちゃアカンのか。

一寸法師のラストで「人間は大きさではない。大事なのは器の大きさだ」といわれて、そのまま終わるみたいな。『アナと雪の女王』で、「大事なのは心の暖かさだ」といって、冬のまま終わるみたいな。『アラジン』で「自由とは人に与えられるものではない」といって、ジーニーがランプの中に戻っていくみたいな。

そんな不完全燃焼なラスト。

別に画に違和感があっても、ピノキオがタバコを吸わなくても、クジラがただのモンスターになっていても良い。でも、ラストはここで終わっちゃアカン。ブルーフェアリーも遠くの方で呆然としていると思うよ。

音楽

ダメなところはこれくらいにして、音楽とジョセフ・ゴードン・レヴィットの演技は素晴らしかった。

音楽に関しては、もはや文句を言う人はいないでしょう。冒頭の「星に願いを」のジングルに重ねて、ジミニー・クリケットが歌い出す最高のオープニング。これだけで、おそらくもっとも有名な映画音楽であろう「星に願いを」の偉大さがわかります。

「ハイ・ディドゥル・ディー」はキーガン・マイケル・キーの歌声が響き渡り、「もう糸はいらない」もリメイクされたピノキオのダンスに若干ワクワクする。

唯一疑問に思う点としては、「星に願いを」をブルーフェアリーが歌うシーンですかね。歌唱自体は素晴らしいのですが、よくよく考えると、「お前が歌うんかい!」とツッコみたくなる。「あわてんぼうのサンタクロース」をサンタみずから歌い出すみたいな、変な感じ。

最後に

実写化はいったんストップしてほしい。

『白雪姫』も成功する気がしないし、アニメで印象付けられている作品を再映画化するのは難しいよ。

それよりも、ディズニーのすべての力をそそぎこんだ、『ファンタジア』新作が観たい。もしくは、ディズニーランド開園までを描いた伝記映画とか。

 

以上。