『ナイトメア・アリー』評価と感想(ネタバレ) ギレルモ・デル・トロらしいけど、らしくないノワール映画

スルメ
どーも、スルメです

今回はアカデミー賞作品賞にもノミネートされております、『ナイトメア・アリー』の感想を書いていきます。

この映画は『シェイプ・オブ・ウォーター』のギレルモ・デル・トロ監督の最新作で、なんと3年ぶりの新作!

デル・トロといえば日本アニメ好きであり、大のモンスター好きで、映画に関する造詣も深いオタク気質の監督ってイメージがありまして。

僕自身もオタクなんで、デル・トロ映画大好きなんですが、今回はまさかのノワール映画!

「え、ファンタジーじゃないの?デル・トロが『ナイトメア・アリー』を実写化すんの?」

と、若干驚いたんですが、原作を読んでみれば納得も納得!犯罪映画ではあるんだけど、見世物小屋の雰囲気はデル・トロに合っているなと。むしろ「デル・トロこの手の作品絶対好きでしょ!」と思わずにはいられない作品でした!

ナイトメア・アリー

あらすじ

ショービジネスでの成功を夢みる野心にあふれた青年スタンは、人間か獣か正体不明な生き物を出し物にする怪しげなカーニバルの一座とめぐり合う。そこで読心術の技を学んだスタンは、人をひきつける天性の才能とカリスマ性を武器に、トップの興行師となる。しかし、その先には思いがけない闇が待ち受けていた。

映画.comより抜粋

作品解説

原作はウィリアム・リンゼイ・グレシャムが生み出した、ノワール小説『ナイトメア・アリー』。

ストーリーを超簡単に説明すると、見世物小屋に入った主人公が詐欺の手口を思いつき、成り上がっていく話です。アルコール中毒者についても書かれていますが、実際に作者のグレシャムも中毒を患っていました。『ナイトメア・アリー』は作者自身の体験も入れ込まれた、当時としては珍しい犯罪小説だったんです。

同作は過去にタイロン・パワー主演で1947年に『悪魔の往く町』のタイトルで映画化されております。今作は『ナイトメア・アリー』二度目の映画化にして、リメイク作という見方もできる作品といえるでしょう。

そんな今作の監督を務めたのは、みんな大好きギレルモ・デル・トロ。有名どころだと『パシフィック・リム』や『シェイプ・オブ・ウォーター』を手掛けた、オスカー監督です。

個人的には『パンズラビリンス』が一番好きで、手作り感あふれるダークファンタジーの世界観に刺さりまくったわけですが、今回はノワール映画(簡単に言えば犯罪映画の一種)。ファンタジーでも、ホラーでも、ゴリゴリのSFでもない、まったく新しい境地に挑戦した作品であるわけです。

 

キャストの方は、主人公のスタン役に『アメリカン・スナイパー』のブラッドリー・クーパー。今作では周囲を裏切り続けるペテン師を演じておりまして、こちらもクーパーのキャリアの中では珍しい役どころかなと。

原作では確か金髪だったと思うのですが、今回は完全に黒髪。過去には名優タイロン・パワーが演じた役ですし、比較するのも楽しそう。

また、今作に登場する3人のヒロインは、ルーニー・マーラ、トニ・コレット、ケイト・ブランシェットの3人が起用されています。ルーニー・マーラとケイト・ブランシェットは、『キャロル』で共演して以来ですかね。

そのほかにも、デル・トロ映画常連のロン・パールマンをはじめ、ウィレム・デフォー、リチャード・ジェンキンス、デヴィッド・ストラザーンなどなど、そうそうたる面々が出演しております。

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ブロードウェイ

評価

ストーリー★★★☆☆ 3/5
キャスト★★★★★ 5/5
演出★★★★☆ 4/5
映像★★★★☆ 4/5
音楽★★★☆☆ 3/5

総合評価 ★ 6/10

 

「原作とも『悪魔の往く町』とも違う映画だね」


原作小説と1947年版を鑑賞しておりますが、『ナイトメア・アリー』はどちらとも違う映画になっていたかなと。

もちろん、ストーリーは同じですし、改変されていることもないんだけど、「やっぱりデル・トロ映画だ!」と思える場面がいくつもありました。

特に冒頭の見世物小屋のシーンはデル・トロの趣味が反映されているし、ホルマリン漬けのアレなんて、どうみてもデル・トロ好きじゃん。

カーニバルのセットも現実と虚構の狭間みたいな、デル・トロ映画に共通する世界観が出ているし。

一方で、中盤以降の展開はデル・トロの新境地といえると思う。怪物もロボットも登場せず、骨太な犯罪ドラマを見せてくれます。

 

そんなわけで、僕の好きな映画ではあるのですが、不満があるとすれば長い。

ストーリーを知っているから、そう感じるのか……。いや、2幕の序盤はちょっと緩んだ気がしたぞ。

『悪魔の往く町』が120分以下だったことを考えると、もう少しテンポよく進めた方が僕の好みでした。

 

※以下、原作小説・映画版2作品に関するネタバレが含まれます。

 

感想

導入が最高すぎる

総括すると、導入とラストが最高の映画でした!!

一気に見世物小屋の世界にいざなわれた導入は、デル・トロ映画の中でもトップクラスのエンジンのかけ方だと思います。

主人公のスタンは口達者なペテン師で、誰の忠告も聞かず独走してしまう、情けなさすら感じる男です。でも、この映画の冒頭のスタンはセリフが一切ないんですよね。ブルーノやクレムの呼びかけにも一切答えず、いつの間にかカーニバルで働いているという。スタンといえばお喋りってイメージがあるので、この時点で意表を突かれました。

で、さらに面白い点が、最初に話す相手が、クレムに躾けられた“ギーク”だということ。

ギークというのは、アル中やアヘン中毒者から作り上げられた、タブーすぎる見世物です。映画を観た方はご存じでしょうが、これはスタンの行く末を暗示しているのでしょう。他にも、ギークを助けようとしたり、たばこを分けたりと、ラストを知っていると不穏にすら感じるシーンがチラホラ。

雨の中、クレムとともにギークを追い出すシーンも、「これがスタンの最後なんじゃないか?」と思ってしまったり。ギークを捨てた場所も路地裏(アリー)でしたし、無関係とは思えません。


「デル・トロの中でもトップクラスのスタートを切ったね」

そして、僕が注目したいのは、読心術や電気椅子の見世物のトリックをキチンと解説する点。

デル・トロ映画には超自然的な何かが付き物でした。パンや、カイジュウ、半魚人にクリムゾンピークの幽霊などなど、彼の映画にはモンスターや幽霊などが登場しています。

そんな魅力的なモンスターたちが今作には登場しません。むしろ「モンスターに見える奴も俺がクスリで作った」と種明かしをすることで、現実の、生きている人間の怖さとか非情な部分を表現していくと。

これはギレルモ・デル・トロが今作に影響を受けたと公言している、トッド・ブラウニング監督の『フリークス』と共通する部分でもあります。『フリークス』では体の不自由な人々を起用しながらも、「本当のフリークスは……」と、人間の非情さを描く映画でした。

今作は見世物小屋の裏側を解説してしまうことで、「視覚的な怖さよりも、人間の悪意の怖さを描く映画ですよ」と映画序盤から示しているんですね。

個人的には潔さを感じるというか、「いつもデル・トロとちょっと違うな」と思った部分なんですが、デル・トロ映画好きでも賛否別れるところかもしれません。

3人のヒロイン

スタンはもちろんのこと、今作は3人のヒロインが超重要です。

原作を読んだ時も思ったのですが、スタンって我が道を行く人に見えて、実はヒロイン達に翻弄されているんじゃないかと。

スタンが詐欺の技を手に入れたのはジーナとの出会いがきっかけでした。ふたりが出会ってもお風呂場でのキスがなければ、ピートの死もなかっただろうし、スタンが見世物小屋を抜けることもなかったでしょう。ジーナに他意がなかったとしても、彼女の行動によってスタンの人生は大きく変わりました。

続いて、モリーとの出会い。彼女は今作に登場するキャラクターの中でも善の方にいる人で、いわゆるアンジェーヌです。なので、スタンが悪に染まっていくのを許すことができません。彼女の言葉や行動によって、スタンの心は大きく揺れ動きます。終盤には彼女の良心的な選択がスタンにとどめを刺しました。

一番顕著なリリスは、スタンの詐欺に協力しただけでなく、その一歩上をいく女性です。文字通りスタンを翻弄するだけでなく、最終的には金すら奪ってしまうという役回りをします。

以上のように、この映画、実はヒロインによってスタンが転がされている作品と取ることもできるんですね。

僕としてはスタンよりもヒロインたちに目が行ってしまって。『悪魔の往く町』ではスタンを演じたタイロン・パワーのスター性もあってか、女優たちがそんなに目立ってないように思えたのですが、今作はむしろヒロインの方が印象に残る映画になっていました。

もちろん、キャスティングも秀逸ですしね。ルーニー・マーラはより人間らしく、トニ・コレットはスクリーンに登場するだけで存在感が凄いし、ケイト・ブランシェットはこれ以上のリリス役はいないんじゃないかと思うくらいのハマりっぷり。

ブラッドリー・クーパーはかなりプレッシャーを感じたんじゃないかな~と、勝手に思ったりする。

ラストについて

一番語りたかったのがラストシーン!

原作、『悪魔の往く町』、『ナイトメア・アリー』と三者三様のラストが用意されておりまして。まずはそれぞれを解説していきます。

原作はスタンに対し、見世物小屋のオーナーが「ギークのふりをする仕事があるんだ」という場面で終わります。スタンのリアクションは見せませんが、強烈なオチになっていると。

最初の映画化作品である『悪魔の往く町』は、ギークになった後のスタンが描かれるも、生き別れになっていたモリーと再会。モリーと会ったことで、スタンが自分を取り戻す、一番救いのあるラストになっていました。

そして、今回の『ナイトメア・アリー』。原作に近いのですが、「ギークのふりをする仕事がある」という言葉を聞いたスタンが、泣きとも笑いともいえない絶妙な表情を浮かべるというラストでした。

「救いがあるのか、ないのかわからねぇ」

不穏なまま終わるラストですよ(笑)

ブラッドリー・クーパーはインタビューで「スタンにとってのハッピーエンド」と語っていましたが、僕はどうしてもハッピーとは思えない!

どちらかといえば、スタンは最初から自分の人生がバッドエンドであることを察していたと思う。あのシーンの笑みは「あぁ、ついにここまで来たか……」という、ある種の諦めを感じさせるリアクションでした。

原作には書かれていないし、完全に僕の予想だけど、スタンはギークの仕事を受けるのでしょう。そして今作で示唆されたように、どこかの路地裏に捨てられて、その生涯を終えると。

タイトルの『ナイトメア・アリー』というのも、そんな袋小路になっているバッドエンドから抜け出せない様を意味していると解釈してます。

ラストシーンは観客に解釈任せているような気もするんで、人によって印象が変わるところなんですかね。それにしてもブラッドリー・クーパーの、辛すぎる笑いが頭から離れなくなるよ。

最後に

まとめると、おおむね満足なんだけど、やっぱりデル・トロ流のダークファンタジーが観たい!

『パンズラビリンス』とか本当に好きなんですが、ここまで巨匠になると難しかったりするのかな。

ジェームズ・ワン監督とか、今でも原点に立ち返った映画撮っていたりするし、デル・トロもぜひ……。

次のデル・トロ映画はNetflix配信の『ピノッキオ』です。ディズニーも『ピノキオ』の実写映画を作っているんで、そこと比較されるのでしょう。

僕としてはガッツリダークなデル・トロ版『不思議の国のアリス』が観たいけども。ゲームの『アリス・イン・ナイトメア』をデル・トロ流に映像化するでもあり。

デル・トロの次回作にも期待しているよってことで、締めたいと思います。

 

以上。


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