【ネタバレなし】映画『メランコリック』感想 殺人事件は「銭湯」で起きている。





どーも、スルメ(@movie_surume)です。

 

前々からどうしても観ておきたかった映画

『メランコリック』

ついに観てきました!

前情報としては「第二の『カメ止め』」と呼ばれていて、ウディネ映画際で新人監督賞を受賞。

東京国際映画祭でも日本スプラッシュ部門で監督賞と、公開前にも関わらず華々しい受賞経歴がある映画だということ。

それだけで映画好きにして観れば魅力的に映るじゃないですか!?

ただ劇場公開日は8月3日…。それまで待てねぇよ!!

 

と、まぁそんな状況の中で運よく試写会に行くことが出来まして、念願の『メランコリック』を鑑賞できた次第であります。

試写会での不満は「椅子に背もたれがなかった」くらいで、映画本編は心の底から楽しめる作品でございました!

ってことで以前の私のように『メランコリック』が気になっている人に向けて、ネタバレを含まずに感想書いていきたいと思います!

 

「お前の感想すら頭に入れたくないんだ!」って方はブラウザバックをお願いしますね。

メランコリック

あらすじ

東大卒でニートの鍋岡和彦は、心優しい両親と共に就職もせずぐーたら生活を送っていた。

ある日、普段は行かない銭湯で偶然出会った同級生の副島百合に勧められ、その銭湯「松の湯」で働くことに。

銭湯での仕事はシャンプーの補充、風呂掃除、接客などありきたりな作業だったが、たまたま「現場」を目撃してしまったことで彼の生活は一変する。

そう、その銭湯は営業終了後に「人を殺す場所」として使われていたのだ。

 

予期せぬことで裏社会への扉を開いてしまった和彦は、同僚の松本と共に夜な夜な死体処理を行うようになっていく…。

『メランコリック』公式サイト

監督

監督を務めたのは本作が初長編映画となった田中征爾。監督の他にも脚本、編集を兼任しています。

アメリカでシナリオを学んだ後、現在はベンチャー企業で映像制作をしているそう。

本作は監督の仕事がお休みの週末(金曜の夜から日曜の昼まで)を使って作られたらしく、試写会後に行われたトークショーでは撮影の裏話も紹介してくださいました!

後述する主演二人と「One Goose」なる映画製作ユニットを立ち上げ、『メランコリック』がその第一作目です。

キャスト

主人公の鍋岡和彦を演じたのは俳優の皆川暢二

One Gooseのメンバーでもあり、皆川さんの誘いで本作の計画が始動したようです。本作ではプロデューサーも兼任しており、ロケハンもキャスティングもすべて彼が行ったとか。

 

そしてもう一人のOne Gooseメンバーで、和彦の同僚・松本役を演じたのが磯崎義知

タクティカルアーツディレクターとしての一面もあって、本作のアクションシーンは彼の演出によるものです。

 

その他にもヒロインの百合役の吉田芽吹、銭湯「松の屋」のオーナー東(あずま)役で羽田真、ヤクザの田中役で矢田政伸が出演しています。



感想

第二の『カメ止め』か

何故か使われるようになった「第二の『カメ止め』」という言葉。

私もそれに惹かれた内の一人と言っても良いんですが、ハッキリ言って『カメ止め』とは共通点の少ない作品です。

まぁインディーズ映画だし、製作費300万円の低予算映画というのは共通しているんだけどね(笑)

 

作品の内容として『カメ止め』はホラー&コメディ(むしろ90%はコメディ)だったのに対して、『メランコリック』はジャンルの断定が出来ません。

サスペンスでもあるし、コメディでもあるし、ロマンスでもある。監督は「人間ドラマである」とおっしゃってました。

コメディとは言っても『カメ止め』のように全力で笑わせにくるものではなくて、本人たちにそのつもりはなくてもニヤニヤしちゃうタイプの作品かな。

少なくともポスターで受けたかもしれない「ホラーな印象」とは全然違っていて、個人的には大学生くらいの年代の方々にオススメしたい映画です。

巻き込まれ型映画

「ジャンルの断定はできない」と先ほど書きましたが、本作は大まかに見ると「巻き込まれ型映画」の内の1本なのかなと。

「巻き込まれ型」って言うのは、一般人が考えもしなかった世界に突然引き込まれるストーリーを持つ映画のこと。

古くはヒッチコックの『北北西に進路を取れ』とか、日本映画だと『ゴールデンスランバー』とか。私が最近見たNetflixの『ポイント・ブランク この愛のために撃て』も巻き込まれ型ですね。

 

主人公の和彦は定職につかないニートで、実家暮らし。女の子から言われて銭湯で働くも、気力は特にない普通?の青年です。

しかし、銭湯が人殺しの場所ってことを知ってからヤクザや殺し屋が実在する裏社会に「巻き込まれ」ていきます。

たぶん記事を読んでいる人でヤクザや殺し屋が身近にいるって人はいないと思いますが、もし自分が和彦と同じ状況に置かれたら…。

いつか自分が消されるんじゃないかと怯えるか、はたまた新しい世界だとワクワクするか。後者は少ないと思うけど、東大卒ニートの和彦は巻き込まれてしまった「仕事」にどう向き合っていくのかって言うのを楽しむ映画なんですね。

だから人によってはこの作品はコメディでもあり、サスペンスでもある。様々な方向から観ても、違った顔が見えてくるような映画だと思うんです。



殺人は銭湯で起きている

誰もがホッとできて、一日の疲れを癒せる場所である「銭湯」。

そんな銭湯が裏社会の人間たちによって「殺人現場」として利用されている。そして深夜に起きていることも知らずに、次の日もお客さんたちは癒されに銭湯にやってくる。

監督曰く、当初は現場を採石場にする予定だったらしんですが、銭湯にしたのが非常に上手くいっているんじゃないかと。

松本を演じた磯崎さんが言った通り、不謹慎だけど銭湯って殺人を隠すのに最適な場所なんですよね。

水回りが揃っていて、シャンプーとか入浴剤で血のニオイを誤魔化せるし、焼却用の窯もある。採石場よりもずっとストーリーに説得力を持たせています。

 

あとはギャップね。癒される場所が深夜は「癒し」とは正反対の場所になるってギャップが面白い。

仕事に疲れて「ぷはっー」とお湯につかって気を許したおじさんに囁くんですよ。「昨日そこで人殺したんだよ。」って。

本編にそんなシーンないんですけど、何も知らずに浸かりに来ているのが面白いじゃないですか(笑)

日本らしさもあるし、1つ1つのシーンが映えるだろうし。この映画にとっては銭湯を舞台にしたのはベストだったんだなと思えます。

 

この映画を観て気が付いたんですけど、私自身銭湯に行ったことが一度もない(笑)

いや、スーパー銭湯はありますよ?でも「松の湯」みたいな街の風呂屋、浴槽の壁に富士山が書いてあるような場所に行ったことがありません!

そもそも潔癖症だし、知らないおじさんとお湯を共有するのがキツかったりする。温泉も嫌いだしね(笑)

一筋の光

本作は殺人や裏社会が描かれているのに、一切「暗さ」を感じない映画でした。

映画に登場するキャラクターたちにとっては幸せとは言えない「憂鬱」な生活なのかもしれないけど、こっちまで暗い気持ちになったりする映画じゃない。

これはどうしてだろう?と考えた時に、やっぱキャラクターたちの魅力にあると思うんですね。

 

和彦は日常生活では悩みが多そうでも、どこか抜けている。松本は殺し屋なのに体育会系部活の人懐っこい後輩みたいなキャラだし。

私も主人公と同じように(東大じゃないけど)大学終わって就職せず、映画観ては仕事して旅行してを繰り返している人間なんで、和彦に自然と感情移入しちゃって。

劣等感とかはないし、私は映画観る時間が増えて幸せだと思ってるけどね。

 

そして吉田芽吹さんが演じたヒロインの百合がもう可愛くて(笑)

和彦にとっても、観客にとっても『メランコリック』という映画の中に差し込んだ一筋の光のように見えてしまう。暗い映画じゃないから光もなにもないんだけど(笑)

和彦と百合のシーンは『メランコリック』っぽく言うなら銭湯。映画の中でホッと一息つける場面は重要です。

あー、俺もこんな女の子と飲みに行きたいぜ…。



One Goose

最後にめちゃくちゃ個人的なことを。

本作は同い年の友人同士で作った映画なんですが、私も学生時代に映画好きの友達と一緒に映画を作ったことがありまして。

その時のメンバー4人でどんな映画を作るかについて話し合うと、決まって話がまとまらず言い合いになったりしてたんですね。それぞれ好きな映画も作りたい映画も、目標にしたい映画も違う。そうなると我が強すぎる私たちじゃどうしても協力できませんでした。

結局よくわからない、脚本すらないサイレント映画を作ることになって…。まぁそれはそれで学生時代の良い思い出なんだけど、当時は映画制作に憧れがあったから不満が大きかったのです。

 

私自身にそんな背景があるので、今回のトークショーでOne Gooseの皆さんを拝見した時に羨ましさがブワッと溢れてしまいました(笑)

脚本は監督の田中さんが手掛けているのですが、話の大筋はOne Gooseの3人で話し合って決めたのだそう。

私たちなら話し合いに入る前の段階で揉めてましたからね(笑)
その話し合いを基に映画作って、国内外で絶賛されるって単純にスゲェ!

10代の学生と大人のプロとでは比べ物にならないし、思いつきで「映画作ろうぜ!」ってなった私たちとは根本的に違うんだろうけど(笑)

 

学生時代が終わって、あまり会うことがなくなってしまった彼らは元気にしているのだろうか。

うち一人は映画監督志望らしく今でも映画制作に打ち込んでいるようだけど、どんな映画を作っているのかは謎。

いつか再び集まってあのメンバーでまた映画作りたいなぁって気持ちは・・・1ミリもありません!

まとめ

期待していた通り・・・いや、それ以上の素晴らしい映画でした!

邦画でも良作は多いんですが、たまーに同じような作品が乱立することってありますよね。

いつも同じキャスト。同じようなストーリー。うーん、それってどうなのかなぁ…って思っている人もいるんじゃないかな。

そんな中で去年の『カメラを止めるな!』然り、今回の『メランコリック』然りインディーズ映画が絶賛されると無条件で観に行きたくなる。「これまでにない映画が観られるんじゃないか?」と、新鮮な映画を求める心が動かされるのです。

マンガ・アニメ原作の映画も意外と好きだけど、年に一度くらいはこんな国内インディーズ映画に出会いたい。

以上!!!