映画『リコリス・ピザ』ネタバレ感想と評価 どんなに愛があっても歳の差は超重要!

スルメ
どーも、スルメです

“PTA”と聞いて、なにを思い浮かべるでしょうか?

ほとんど人はparent teacher association、学校に存在していて、いまだに何をしているのか不明な「例の組織」を思い浮かべることでしょう。

しかし、僕にとってのPTAは、映画好きなら誰もが注目するであろう名監督、ポール・トーマス・アンダーソン(Paul Thomas Anderson)その人です!

『ハードエイト』『ブギーナイツ』と来ての、『マグノリア』がたまらん。ま、僕がリアルタイムで鑑賞しているのは『インヒアレント・ヴァイス』以降なんですけどね。

今回はそんな“PTA”の最新作『リコリス・ピザ』のお話です!

これにて、ようやく今年のアカデミー賞の作品賞がすべて日本で公開になりました!遅いよ!遅すぎるよ!

ってことで、以下ネタバレありの感想です。

リコリス・ピザ

あらすじ

高校生にして俳優のゲイリーは、写真撮影の会場で俳優たちのサポートをしていた、10歳年上の女性アラナに一目ぼれ。さっそく口説こうとするも、当然アラナは10個も下のゲイリーなんて相手にしません。

しかし、ゲイリーはあきらめず、ひたすらアタックを続けていきます。

1970年代の懐かしき(僕は生まれてすらないけど)世界で、ふたりの男女の微妙な関係が続いていき……。

作品解説

冒頭にも説明した通り、ポール・トーマス・アンダーソン(以下 PTAで統一します)監督の最新作。彼は『ブギーナイツ』をはじめ、70年代を舞台にすることが多く、今回も1973年から始まるストーリーが展開します。

ストーリー自体はボーイミーツガールなのですが、そこはPTA。美しくもあり、儚くもあり、笑いもある。おそらくPTAファンなら涎を垂らして観るしかないであろう、極上の青春映画となっています。

 

キャストは音楽活動をしているアラナ・ハイムや、フィリップ・シーモア・ホフマンの息子、クーパー・ホフマンなどが起用。

映画の節々で実在する映画プロデューサーや、俳優がモデルのキャラクターなど、数々の名(迷)キャラクターが登場。しかも、そのキャラクターたちを演じているのが、ショーン・ペンブラッドリー・クーパーという超豪華さ。

出演者たちの演技も楽しめる作品になっています。

PTA作品はU-NEXTで配信中

ポール・トーマス・アンダーソン作品を観るならU-NEXTがおすすめです。

  • ハードエイト
  • ブギーナイツ
  • マグノリア
  • パンチドランク・ラブ
  • ゼア・ウィル・ビー・ブラッド
  • ザ・マスター
  • インヒアレント・ヴァイス
  • ファントム・スレッド

など、ほぼすべての監督作品がラインナップされています(2022年6月時点)。

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『リコリス・ピザ』評価

ストーリー★★★★☆ 4/5
キャスト★★★★★ 5/5
演出★★★★★ 5/5
映像★★★★★ 5/5

総合評価 ★ 8/10

 

「文句なしのPTA流ラブストーリー!」


70年代のアメリカを体験したわけではないのに、なぜか懐かしく、PTAらしいトリップ感に満ちていたラブストーリーでした!

『マグノリア』ほど奇跡的なことは起きないし、『ブギーナイツ』ほどドラマチックじゃないし、『ザ・マスター』ほどカッコよくキマらないけど、どこにでもある青春がPTAの世界で煌めいている。

僕としては、PTAの傑作群の中でも、上位に食い込むくらい大好きになれる作品です。

 

そして、当然のことながら、キャストが素晴らしいですね。

PTAは自分が撮りたいと思う配役で映画を作っていると勝手に思っているのですが、今回も世界観にマッチした素晴らしい名優ばかり。

特にヒロインのアラナ・ハイムの、ちょっと浮世離れした雰囲気は、おそらく彼女以外に出すことは難しい。本業はミュージシャンなので、『スター誕生』にレディ・ガガがとんでもなく映えることと共通する気がします。

キャストについては後ほど詳しく執筆するので、ぜひ最後までどうぞ。

 

※以下、『リコリス・ピザ』のネタバレを含んでいます。まだご覧になっていない方はご注意を

 

『リコリス・ピザ』感想

PTA流ロマンス

恋愛映画を観ていると、「本当にその人と付き合っていいのか?」と思うことがあります。映画の中では素敵に演出されているけれど、果たしてこのふたりが結婚してうまくいくのだろうか?と。

正直な話、この映画の主人公であるアラナとゲイリーも、僕の中ではそんな感じなんですよね。性格も違うし、人生経験も知識も違うし、「本当にうまくいくのか?」と懐疑的な目で見てしまう。

特に年齢差については、明確に示唆されていました。

たまに「恋愛に年齢は関係ない!」と語る人いますが、そんな夢のような言葉を聞くと、「いや、関係はあるでしょw」とツッコんでしまう自分がいる。10歳も離れると育ってきた文化も違うし、よっぽど強い共通点がなければ、恋愛関係を続けることは難しいんじゃないかと。

アラナとゲイリーは10個も離れていて、劇中では石油危機に対する危機意識の違い、恋愛観の違いが描写されていました。特に運転に関するシーンでは、コメディ調ながらも、ふたりの人生経験の違いが如実にあらわれていたと思います。

「10個の差を埋めるのは大変だ」

2時間以上をかけて、ふたりの恋愛に発展しそうでしない、微妙な関係を描いていたのも、年齢差を乗り越えるために説得力がいるから。というか、歳の差こそが、本作で描きたかった最大のポイントだと僕は勝手に解釈しました。

 

アラナ視点でこの映画を観ると、非常にゲイリーに対してイライラすると思うんですよね(笑)

僕はアラナと同い年なのですが、ゲイリーはかつての僕と同じように若く、鬱陶しく、自分がなくしてしまったかもしれない野心に満ち溢れています。若さから来るエネルギーが妙にイラっとしてしまう感情がアラナの中にもあって、そこから恋愛感情へと移り変わっていく過程が、この映画の醍醐味です。

一方で、映画中盤以降は、ゲイリーの方が大人に見えたりするシーンもあります。ゲイリーはビジネスで成功していく中で、徐々に大人へと成長していきますが、アラナは子供じみた行動に出ることも。そうした中で、互いになくてはならない存在へとステップアップしていくのです。

そして、青春映画って、もはや“性春”映画になることが多いのですが、この映画は肉体関係は結ばず、適度な距離感が心地いい。

アメリカの映画だと、「セックスしただけで恋人だと思わないで!」的な展開多いじゃないですか? 特に年齢差がある関係だと。

本作はたとえめちゃくちゃいいムードになっても、手をつなぐことすら憚られる。そんなプラトニックな関係が、非常に安心感を与えてくれます。手をつなぐことって簡単にやってのけるけど、実は結構難しくて、「つないでいいのか、けどなぁ……」という葛藤に、青春のすべてが詰まっていると僕は思う。

キャストたちの勢い

本作もほかのPTA作品らしく、キャストたちの演技が印象に残る映画でした。

冒頭にも書きましたが、アラナ・ハイムの自然な立ち振る舞い。彼女は演技未経験なのですが、若干アウトローだけど、常識はきちんとある年上の女性の雰囲気は、ほかの女優じゃありえなかったでしょう。

ゲイリー役を演じた、クーパー・ホフマンも本作が映画初主演。彼はPTA作品の常連で、若くしてこの世を去った、フィリップ・シーモア・ホフマンの息子です。

僕も当初は「フィリップ・シーモア・ホフマンの息子が主演かぁ」くらいに考えていました。でも、彼の存在こそが「PTA作品にしては軽快」と評される所以になっているのでしょう。

「撮影現場は和気あいあいとしてそうだね」

さらには、「なぜそこに!?」と笑ってしまうようなポジションに配された大スターたち。

特に自信過剰な俳優ジャック(モデルはウィリアム・ホールデン)を演じた、ショーン・ペンは終始最高でしたね。すごい俳優なんだろうけど、自分のことしか眼中にないのがまるわかりで、逆に笑える。

そして、ブラッドリー・クーパーも。彼の登場シーンはずっと劇場が笑いに包まれていましたし、「ピーナッツバター」のくだりは何がどうなって生まれたのか……(笑)

 

そんな感じで、わき役キャストも注目な映画なのですが、主役を食わない登場がポイントです。演技未経験のふたりと、大ベテランの俳優が共演しているのに、たいていゲストキャラクターは滑稽に描かれるから、画面で負けることはない。

あくまでも、わき役に徹し、主役二人を引き立てるのがベテランたるゆえんですかね。

70年代のロサンゼルスに酔いしれる

最近は監督自身のバックグラウンドを映画に取り入れる動きが盛んになっています。代表的なところでは、アルフォンソ・キュアロン監督の『ROMA』、ケネス・ブラナー監督の『ベルファスト』です。

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監督たちのムーブメントの中、本作もPTAの経験が取り入れられています。ゲイリー=PTAってわけではありませんが、彼が少年時代を過ごした70年代のサルフェナンド・バレーが舞台となり、ウォーターベッドやピンボールなども当時ブームになったカルチャーです。

90年代生まれの僕はウォーターベッドなんて、『シザーハンズ』の中でしか見たことないのですが、なぜか懐かしさを感じる……。そもそも70年代ロサンゼルスが、『三丁目の夕日』以上にノスタルジーにあふれているのは何故なんでしょう。ハリウッド映画を観て育ってきたからというのもありますが、日本人にも通じる普遍的な懐かしさがあるんでしょう!

当然のことながら、PTAらしいカメラワークやカットなんかも語っていきたい。

特に印象的だったのは、ゲイリーが警察に誤認逮捕され、アラナに駆け寄るときのカット。位置的にはゲイリーとアラナは対面しているのですが、扉から出ようとするゲイリーと、扉のガラスに反射するアラナを同時に映していくという、神がかった構図になっています。

他にも、窓から入りこむライトの光で二人の影が伸びていくカットとか、ショーン・ペンが疾走していく中で、ゲイリーがアラナを助けに向かう一連のシーンとか、「PTAの映画観てるわ!」って場面が多かったです。特に後者は『ザ・マスター』ぽくもある。

派手なアクションとか、大迫力の映像とかはありませんが、本作のような繊細かつ緻密なショットで構成された映画も、ぜひ映画館で観てほしい!DVDレンタル開始まで待つとかはやめて、今すぐ劇場に向かいましょう!

そして、どうしても語りたいことが……

日本食レストランのシーンは何だったんだ(笑)

明らかに日本語訛りを強調した英語で話す男性と、堂々と日本語で話しはじめる奥様たち。

僕は記事内で70年代ロサンゼルスへの憧れを語りましたが、実際に住むには辛い場所なのかもしれない。海外では笑えるポイントなのかわかりませんが、日本人かつ自称・旅人の僕としては、ここだけ現実に引き戻されました。

幻想的ともいえる世界を描いておきながら、「ここは現実です」とPTAなりに線を引いたシーンだと解釈していいのかな。『ラストナイト・イン・ソーホー』ほどじゃないですが、ちょっと時代の闇が見えた気がする。

最後に

全体的に素晴らしい作品で、PTA監督作の中でも『ブギーナイツ』に次ぐ上位に来るくらい好きな映画でした。

この作品をきっかけに、PTA作品を観返しているのですが、『マグノリア』と『ザ・マスター』が体力使うんだよな~

『パンチドランク・ラブ』や『ブギーナイツ』はサクッと鑑賞できるのですが。

そんなわけで、今後のご活躍を期待しております!日本でも米国と同じくらい早く上映してね!

 

以上。


 

『ザ・ロストシティ』の感想はこちら

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