
今回はムロツヨシさん主演の映画『神は見返りを求める』についての感想です。
突然ですが、皆様は1日にどれくらいYouTubeを見るでしょうか。
僕は広告にイラっと来ちゃうタイプなので、最近は見ていません。意識的にYouTubeを開かないようにしていますし、好きなYouTuberのチャンネルが更新された時くらいしか見ないかな。
だって、ショート動画とか見てると、秒で時間すぎるじゃないですか。
1日の終わりに「俺はなんて無駄な時間を……」とひとり反省会を開いちゃうので、YouTubeはやめようと1年半くらい前に決意を固めました(笑)
今回レビューする映画は、YouTubeとかなり関わりが深い作品。
なんとなくYouTuberを皮肉るような描写もあるので、ぜひ若い人たちにも観てほしい!
神は見返りを求める
あらすじ
イベント会社に勤務する田母神は、人の頼みを断れないタイプでした。ある日、やっぱり断れなくて参加した合コンで、底辺ユーチューバーのゆりと出会います。
ゆりは自身のチャンネルの手伝いを田母神にお願いし、ふたりで運営を続けていくことに。
やがて、有名ユーチューバーと知り合ったゆりは、自身のチャンネルに本業デザイナーを参加させ、一流ユーチューバーへの道を駆け上がっていきます。
しかし、素人の田母神には居場所がありません。あんなに手を尽くしてくれた田母神を、いとも簡単に捨てたゆりは、ユーチューバーとして大活躍していきますが……。
作品解説
本作の監督・脚本を手掛けたのは、『ヒメノア~ル』などを手掛けた吉田恵輔(以下、敬称略)。
少々エグめなストーリーを世に送り出してきた印象のある監督ですが、今作は意外にもコメディタッチ……と思いきや、やっぱりブラックユーモア満載の作品でした。
主演は福田監督作品でおなじみの、ムロツヨシ。本作ではシリアスなキャラクターを演じています。
また、ヒロインのゆりちゃん役には『やがて海へと届く』での繊細な演技が記憶に新しい、岸井ゆきの。闇を抱えていそうなユーチューバー役を好演しております。
【関連記事】『やがて海へと届く』のネタバレレビュー
その他キャストは若葉竜也、吉村界人、淡梨、柳俊太郎などなど。
『神は見返りを求める』評価
ストーリー | ★★★☆☆ 3/5 |
キャスト | ★★★★☆ 4/5 |
演出 | ★★★☆☆ 3/5 |
映像 | ★★★☆☆ 3/5 |
総合評価 ★ 6/10
「思ったより怖いじゃないの」
ポップな映画に見えて、さすが吉田監督というべきか、人間の怖さが凝縮された映画でした!
人はもちろん怖いんだけど、ユーチューバーたちのなんとも言えない不気味さ。
そう、これこそ僕がYouTube文化に馴染めない理由のひとつであって、妙な明るさが逆に恐い。テロップとかも怖い。
ちょっと前にアンドリュー・ガーフィールドが主演を務めた、インフルエンサーを描いた映画がありましたけれども、本作の方が断然的を射ています。
田母神の手段を択ばない行動にビビり、嫌な女に変身したゆりちゃんに感情を揺さぶられ、その他キャラクターにもイライラさせられたりする。
ムロツヨシさんをはじめ、キャストの演技も一流で、特にチョレイ&カビゴンのユーチューバーコンビを演じた吉村界人さん、淡梨さんのふたりは、「本物のユーチューバー連れてきたのか?」ってくらいのレベルの高さ。
こんなコンビチューチューバーよくいるわ~とか思いながら、鑑賞してました(笑)
※以下は『神は見返りを求める』のネタバレが含まれます
『神は見返りを求める』感想
YouTubeの文化を映画に持ちこむ
僕は20代中盤で、ネット世代代表みたいな年ごろですが、現在はあまりYouTubeを見ない人間です。見たとしても企業のニュースや映画の予告、もしくは料理チャンネル程度。ゲーム実況も嫌いだし、映画の感想を語る人々の動画も見ないし、自己啓発関連も見ません。
そんな感じで、僕はあまりユーチューバー文化にイマイチ乗れていなくて。「渋谷で騒いだ!」とか、「100万円分の○○買ってみた!」とか、“ユーチューバーらしい動画”はどうも敬遠しがちです。
理由としては彼ら(明言は避けるが)って、ちょっと怖いんですよね。妙に明るいテンションが、どうにも苦手で。決してアンチとかではなく、例えるなら「本当は疲れているんだろうな~」という超冷めた目と思いこみを通して見る、歌のお兄さんって感じ。
『神は見返りを求める』は、そんなユーチューバーたちをそのまま映画に登場させてしまった、第1号になるのではないかと。
映像作品にユーチューバーが登場することは、これまでにも何度かありました。けれども、所謂“迷惑系ユーチューバー”として登場したり、ステレオタイプで悪者扱いされることが多かったように思えます。
一方、本作は主人公自身がチャンネル運営をしている“ユーチューバー当事者”で、YouTubeの文化や人間関係を丸々映画に入れこんだ、実は珍しい映画だといえるのではないでしょうか。
「現代らしい映画になったね」
テロップや編集方法など、過剰に演出されてはいますが、コテコテで脂ぎったユーチューバー描写がスクリーンに映ると、2020年代の映画だなと改めて。
僕としては、映画とYouTubeは同じ映像コンテンツでも、相容れないものだと考えていました。映画はたっぷり時間をかけて楽しむ娯楽ですが、YouTubeは一秒でも早く結末を見せてしまう娯楽です。
気軽さというのは偉大なもので、YouTubeはいとも簡単にぬらりと僕たちの生活に入りこんできて、多くの若者を虜にしています。一方、映画は映画でIMAXやらドルビーシネマやら、“体験”としての映画を推し、順調に発展を遂げている最中です。映画もYouTubeもスマホで楽しめる世になったけど、やっぱり両者は別の道を歩んでいて、水と油のような関係のまま、交わることなく平行線を辿るかと思いきや……
「ここで交わってきたか!」となったのが、この映画でした。
再生回数を稼ぐため過激な行動に出る者、危険を考えず面白い画だけで動画を撮影する者。さらには、暴露系ユーチューバーや、若さにかまけて無謀な行動に出てしまう迷惑系ユーチューバーまでも登場。
そして、ユーチューバーたちは客観的に見ると足の引っ張り合いしかしていない謎の喧嘩をくり広げ、視聴者はそんな彼らを逐一ニュースに取り上げる。
その一方で、自らに向けられる大人たちの冷めた目線を自覚しながらも、必死にチャンネルを盛り上げていくユーチューバーたちもキチンと描かれる。彼らとて、何の努力もせず、視聴者に媚びるだけでのし上がってきたのではない。必死に考え、行動した先に今の生活があるのだと。理解できない仕事じゃない、あくまでも現実の彼らを踏襲した、一歩先をいったユーチューバー描写。
これを1本の映画でやってのけてしまった点こそ、この映画の強みといえるのではないでしょうか。
タダより怖いものはねぇ!
僕は「タダ(無料)より怖いものはない」精神に支配されておりまして、“無料” “0円” “タダ” という言葉に疑問を抱くタイプの人です。街中で配っているティッシュはよほど困ってなければ貰わないし、クオカードが貰えるらしいアンケートにも応えません。
この映画で言うならば、田母神と出会ってすぐ無料で仕事を手伝ってもらうなど、言語道断! 映画の中では良い人みたいに描かれていますが、「むしろこえーよ!」というのが本音です。
タイトルどおり、中盤以降の田母神は「見返りを求める」わけですが、誰もが思ったはずですよ。「ほら、やっぱね」と。
「逆に金払いたいくらい」
お金を払うと利害関係が明確になるのですが、そこまで仲良くもなく、金銭も絡まないとなると、なにが目的か怖くて仕事を頼むこともできない。これを損な人間と捉えるか、危機管理能力が高いと捉えるかは、その人次第ですが。
そんなわけで、この映画は「ただより怖い物はない」という格言を地でいくような作品でした。そういう奴に限って「俺のおかげで!!」とか言ってきたりするんだよな。
……書いていて、僕もよく使う言葉なような気がしてきたから、気をつけないと。
さらに、この映画の怖い点は、“発信”という行為が持つ強さを強烈に描いている点。
ブログをやっている僕が書くのもアレですが、発信は武器にもなるし、身を守る盾にもなります。牙をむき出しにして発信しはじめると、それはもう恐怖でしかないわけで。
映画終盤には今まで攻撃として使ってきた“発信”を、「お前の顔を世界にバラまくぞ」と、ゆりちゃんを守る盾として使う田母神の姿が描かれて、僕の中では物語が完結したんだけど……。ラストの描写は予想していなかったし、それが監督の狙いであるのでしょうが、ゾッとしました。
最後に
YouTubeと映画の親和性については、もっと考察する余地があると思う。
ただ、僕が思うに映画は映画館で観るに限るし、YouTubeはスマホの方がしっくりくる。
今後もネット文化に切り込んでいく映画が増えてほしいですね。
完全に余談ですが、本作のロケ地の一部は、僕が学生時代に部活動に勤しんでいた場所でした。
僕らが“運動”と称して、適当なバドミントンに興じていた地が、映画の中ではユーチューバーの撮影場所に。
「羽落とした奴が負けな~」としょうもないバトルを繰り広げていた地が、ユーチューバーたちの血で血を洗う激戦の地に。
まぁ、よくロケで使われる場所なんですけどね。
以上。
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