
今回は白石和彌監督の最新作『死刑にいたる病』の感想を書いていきます。
原作は読んでいたのですが、榛村大和=阿部サダヲだと聞いて、妙に納得したんですよね。
それで予告編を観てみれば、あの目の黒さ!瞳にダークマターでも宿してるんかってくらい、真っ黒で感情のこもっていないあの感じ。
あれはまさしく榛村大和だ!もう予告編だけでも鳥肌が立つくらい、イメージぴったりでした。
白石監督のエグさも相まって、素晴らしくどす黒い映画になっているんじゃないかと。
そんなわけで、今回も公開日に鑑賞して参りました!
死刑にいたる病
あらすじ
鬱屈した日々を送る大学生・雅也のもとに、世間を震撼させた連続殺人事件の犯人・榛村から1通の手紙が届く。24件の殺人容疑で逮捕され死刑判決を受けた榛村は、犯行当時、雅也の地元でパン屋を営んでおり、中学生だった雅也もよく店を訪れていた。手紙の中で、榛村は自身の罪を認めたものの、最後の事件は冤罪だと訴え、犯人が他にいることを証明してほしいと雅也に依頼する。独自に事件を調べ始めた雅也は、想像を超えるほどに残酷な真相にたどり着く。
映画.comより抜粋
作品解説
原作となったのは櫛木理宇氏による、ミステリー小説。ホラー小説を書いていた方で、原作の方も虐待や殺人、拷問の描写があり、文章でもえぐい内容でした。
本作の監督を務めるのは、『凶悪』の白石和彌(以下、敬称略)。『日本で一番悪いやつら』や『孤狼の血』など、内容的にも大人向けな作品を多く手掛けてきた方です。有名どころは大体鑑賞していますが、一番好きなのは『ひとよ』かな。
主演は『舞妓Haaaan!!!』の阿部サダヲ。2000年代はコメディ映画に多く出演していた印象がありますが、最近はシリアスな映画にも出ていますよね。特に『MOTHER マザー』のDV夫は怖かったし、嫌悪感しか抱きませんでした。
本作で演じているのはシリアルキラー役。映画の成功は阿部サダヲにかかっていると言っても過言ではないくらい、重要な役どころです。
そんな殺人鬼と向き合っていく大学生は、『望み』の岡田健史。原作ではここまでカッコよくて、清潔感のあるイメージがないけど、本編ではどうなんでしょ。
その他にも宮﨑優、岩田剛典、鈴木卓爾などが出演しております。
『死刑にいたる病』評価
ストーリー | ★★★☆☆ 3/5 |
キャスト | ★★★★☆ 4/5 |
怖さ | ★★★☆☆ 3/5 |
演出 | ★★★★☆ 4/5 |
映像 | ★★★☆☆ 3/5 |
総合評価 ★ 6/10
「映像化されると痛々しさが増すよね」
原作もエグい描写があったけど、実写化されると目をそらしたくなるレベルでした。
僕はグロい映画は全然大丈夫なんですが、痛々しい描写はダメなんですよ。
今回も爪がはがされるシーンとあって、「爪はやめてよ爪は……」とずっとソワソワしてたよね(笑)
榛村大和のキャラクターも原作どおりだったし、白石監督の演出により面会室での攻防もグイグイ引きこまれる魅力がありました。
ただ、榛村の人格を形成した過去が端折られた印象。雅也の家庭環境ももう少し触れて欲しかったかな。
残念だった部分も含めて、感想を書いていくので、どうぞよろしく。
※以下、『死刑にいたる病』の原作・映画両方のネタバレが含まれます
『死刑にいたる病』ネタバレ感想
榛村大和
キャストの方々は総じて演技力が高かったけれども、総括するとやっぱり阿部サダヲの映画になっていました。
榛村大和は「あんな人が殺しなんて……」と周囲の人から評されるような、人当たりのいい人物でした。そんな人が20人以上手にかけていたのだから、作中世界の人々は大きな衝撃を受けたのです。
この”衝撃”の部分をどう表現していくか。つまり、「殺人鬼には見えないけど、説得力のある俳優」が必要不可欠なわけです。
そこで抜擢されたのが、阿部サダヲ。
『舞妓Haaaan!!!』で舞子にメロメロになっていた阿部サダヲ。
確かに最近はクズ人間といえる役も演じていますが、それでもクドカン映画や、グループ魂での印象は消えていません。
観客が阿部サダヲ本人に抱いているイメージをぶち壊していくことで、榛村大和の恐ろしさを演出していく、超テクニカルなキャスティングでした。
「日本映画史に残るシリアルキラーだったね」
キャスティングの妙も大事ですが、本編でも阿部サダヲの演技は凄すぎた。
ロン毛になると、とたんにラッセンが好きな”永野化”して内容が頭に入ってこないけど、あの真っ黒な目を見てごらんよ。笑顔なのに、子供たちへの優しい声なのに、感情がこもっていない目。怖すぎる。
一度あの目を見ると、榛村のどのシーンでも怖くなってしまう。面会室でも、パン屋でも、やっぱり目が笑ってないんですよね。
でも、あの笑顔で来られたら、子供は引っ張られちゃうよなぁ……という説得力。客観的に映画を観ている僕たちだから違和感に気がつくけど、実際に榛村がいたら、警戒心は解いてしまうと思う。
そんなわけで、「とにかく阿部サダヲ!」な映画でした。
……が!宮﨑優さんが演じた加納灯里は原作イメージそのままで、登場時から驚き。
不勉強なもので、宮﨑優という女優を本作で初めて知ったのですが、今後は出演作を追いたくなるくらい目が離せなくなる演技でして。
実はそんなに仲良くない環の中にいて、気丈にふるまっているけど、居心地悪そうなあの感じ。同級生の雅也だけがホッとできる場所で、おそらく東京に一人で出てきてるだろうから、孤独感がにじみ出ているんですよね。そんな弱い部分に榛村が入りこんできたんでしょう。
必死でエンドロールを観て、“宮﨑優”の名前を復唱しながら劇場を後にしました。
ミステリーとしては楽しいけど
本作はミステリーや犯罪映画としては面白いのですが、原作はもう少し深くまで切り込んでいます。
上映時間の関係上、映画では榛村の犯罪部分と、ミステリー要素に注力していて、彼らの背景がそこまで語られませんでした。
特に雅也の家庭環境については、かなり端折り気味です。雅也の家は父親と祖母で回っていて、母親は蚊帳の外にいる家庭でした。雅也を育てたのはほぼ祖母という設定で、おばあちゃんのために勉強も頑張っていたと。
結局、高校で失敗し、Fラン大学に入学した結果、父親からは“期待外れの息子”として扱われることに。そこを榛村に付け込まれているわけですよ。
榛村のキャラクターも、もう少し掘り下げて欲しかった。原作では彼自身も虐待を受けていた子供だったり、実の母親に対して複雑な感情を抱いていたりと、死刑にいたる経緯が深く描かれています。
「理解不能な殺人鬼で終わってはダメだよね」
榛村の過去はいろいろあったけど、「虐待が彼の人格を変えた」と断言しないのもポイントで。
「なにが榛村を変えたのか?」がこの作品のミソなんですよ。
どんな過去があっても、全員が全員榛村のようになるわけではない。では、果たして彼の暴力性はどこから来ているのか?
映画ではそこを深く描かかず、虐待に関することに少し触れるだけ。映画化して話が薄くなるのは、よくあることですから、まぁ……。
その一方で、面会室でのシーンは映像作品ならではの演出もされていて。
面会室ではガラス1枚挟んで、榛村と雅也が向かい合っているのですが、反射している影が徐々に重なっていく演出が使われてます。
特に「榛村こそ雅也の父親だとミスリードするシーン」では、ふたりの気持ちが重なっていくのを視覚的にアプローチしていましたね。
他にもガラスを超えて手を握ったり、榛村が面会者側にやってきて雅也を誘惑したりと、ふたりの距離間が瞬時に理解できる演出も見事です。
白石監督の『凶悪』だったり、『天国と地獄』だったり、面会室が印象に残る映画は多くありますが、本作は特に面会室という密室を巧みに使った映画に思えました。
灯里について解説
映画のラストシーンは、灯里に榛村からの手紙が届いていて、不気味さを残しながら幕を閉じました。
このシーンについて、最後に少し解説しておくと、灯里と雅也は小学・中学時代の同級生です。ということは、榛村がパン屋を営んでいた街に、灯里も住んでいたということになります。
榛村が興味を抱く年齢は決まっていましたが、そこに満たない少年たちもリストアップしていました。そして、金山がそうだったように、過去にターゲットになった人間に執着する習性も持っています。
つまり、灯里に手紙が届いていたということは、彼女もまた榛村のターゲットのひとりだったと。
もう一つ分かることは、榛村にとって雅也や灯里、金山のような“かつてのターゲット”が山ほどいるってこと。
雅也だけが特別だったわけじゃなく、金山にも灯里にも、おそらく他の人間にも手紙を出しています。監獄の中にいながら、過去のターゲットを手紙とカリスマ性で動かし、楽しんでいたわけです。
灯里に手紙が届いたことで、榛村の異常性がより明確になったというラスト。ゾッとしますね。
最後に
ちょっと説明不足な部分もあるので、映画が気に入った人はぜひ原作を!
映画にはなかったけど、社会的弱者に対する世間の風当たりの強さとかも描かれています。そういった面も含めて『死刑にいたる病』だと思うのですが、映像化は難しいかな。
最後に!阿部サダヲさんはもちろんのこと、灯里役の宮﨑優さんはマジで衝撃でした。
Youtubeでお名前を検索したら、白石優愛さんとクリープハイプの「ex ダーリン」を歌っている動画があって、なぜかちょっとジーンときたりして。
以上。
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