映画『ひとよ』ネタバレ感想 次第に家族に変わっていく不思議な感覚

 

どーも、スルメです。

この映画を撮った白石監督は、とあるパーティーで一度お見かけしたことがありまして。

小柄って言ったら失礼ですけど、あの人から『孤狼の血』とか『日本で一番悪い奴ら』が生まれたんだなぁ~としみじみ思った次第ですw

会話はしてないし、ただ本当に「お見かけした」だけなんですが。そのすぐ後にも、試写会で登壇されていたんで、ひと月の内に二度「お見かけ」することになりました。

 

えー、今回の『ひとよ』はですね。桑原裕子さんが手掛けた舞台が原作となっておりまして、所謂「家族の絆」を描いた作品です。

タイトルがひらがなって言うのが俺は好きなんだ。一夜って意味なんだろうけど、タイトルをひらがなにすることで色々な想像が出来るよね。

ロマン・ポランスキーの「おとなのけんか」とかさ。内容は別として、タイトルは結構好きなのよ。他にも『つぐない』とか、『よこがお』とか、『おばけ』とか。愛すべきひらがな系タイトルたち……。

少しタイトルのこだわりについて語ったところで、レビューに参りましょう!

 

※この記事は映画のネタバレを含みます!

ひとよ

あらすじ

タクシー会社を営む稲村家の母こはるが、愛した夫を殺害した。最愛の3人の子どもたちの幸せのためと信じての犯行だった。こはるは子どもたちに15年後の再会を誓い、家を去った。運命を大きく狂わされた次男・雄二、長男・大樹、長女・園子、残された3人の兄妹は、事件のあったあの晩から、心に抱えた傷を隠しながら人生を歩んでいた。そして15年の月日が流れ、3人のもとに母こはるが帰ってきた。

映画.com

監督

メガホンを取ったのは、先ほどのご紹介した白石和彌監督。

私の中では『凶悪』『日本で一番悪い奴ら』のような、衝撃的な作品の印象が強いんですが『ひとよ』はちょっとテイストが違いましたね。観る前から分かってはいたけど。

それにしても今年(2019)は『麻雀放浪記』に始まり、『凪待ち』からの『ひとよ』とかなりのハイペース。去年も三作品監督しているので、プロモーションも含めたら相当多忙なんじゃ……。

インタビューを読む限りだと、役者の中でも白石監督の作品に出演したいと思っている方は多いみたい。いや、さすがです。

キャスト

メインキャラクターを演じるのは佐藤健鈴木亮平松岡茉優田中裕子の4人。

佐藤健さんはこれまでの役のイメージとは大きく異なり、爽やかさとは遠く離れた役。

鈴木亮平さんも静か目のキャラクターですね。「俺物語!!」で猛男を演じてたとは思えない変わり様です。

松岡茉優さんは……これは俺のイメージ通りかなw 『蜜蜂と遠雷』で演じた栄伝亜夜の方が役者の印象とは遠かったり。3人ともどんな役を演じてもハマるんですけどね。

そして、そんな三人の母を演じたのが田中裕子さん。この役を演じるために髪型を白髪にしたのだとか。

その他にも『アフタースクール』の佐々木蔵之介、白石監督作品では常連の音尾琢真、『よこがお』の筒井真理子などが出演。

評価

僭越ながら『ひとよ』の満足度を★10段階で表すと……

 

★7

 

意外とサッパリ仕上げてきた

母が犯罪を犯して逮捕され、嫌がらせを受けながらも成長してきた三兄弟。それぞれの道を歩み始めた彼らの前に母が15年ぶりに戻ってくる。

あらすじだけ見れば、ドシッとくるような重いストーリーに思えるんですよね。言っちゃ悪いけど白石監督だし……。

でも、犯罪を犯したお母さんのキャラクターもあって、そこまで重くはないというか、エンターテインメントとして観られるんです。

これまでの白石作品も、過激ながらユーモアを感じさせられるところもあり…と言った感じで、私には刺さる作品が多かったのですが、そこからさらに過激さを抜いた感じですかね。

もちろん、観ていて辛い部分もあるんだけど、時折挟まれる母やタクシー会社の人たちのユーモアで中和される。映画館を出る頃には「今日の映画も楽しかったなぁ」と思える映画でした!

 

ただ、最後の展開が駆け足過ぎたことと、佐々木蔵之介演じる道下のストーリーが消化しきれていない。

それぞれが抱えていた問題も解決したのか深く描かれないまま、収束してしまったのは残念。たぶん、万事オーケーな終わり方と捉えて良いのだろうが……。

問題を浮き彫りにさせたなら、解決まで描き込んで欲しかったんで「これで終わり!?」と、ラストである意味呆然としてしまう。俺の読みが浅かったせいかもしれないが。

 

ここから先は『ひとよ』のネタバレを含みます!

まだご覧になっていない方はご注意を!!

感想(ネタバレ)

母の犯罪は正当化できるのか

吉田裕子さん演じる母のこはるは、子供たちに暴力をふるう最低夫をタクシーで轢き殺します。

それは子供たちを暴力から助けるためであり、父に縛られない好きな人生を歩ませるためでもありました。

ここだけ見れば、この一夜の出来事は子供たちにとってプラスな出来事になったように見えますが、実はそうではありません。

母が自首して逮捕されてからの15日間。三兄妹は「人殺しの子供」の烙印を押され、社会から爪弾きにされて生きていたのです。

さぁ、母のやったことは果たして本当に正しかったのか?という疑問が映画開始早々、観客に投げかけられます。

俺としては虐待死とかするよりは、後ろ指刺された方が……とか考えるワケですが、本人たちは父に対する恨みと、母に対する恨みも両方持ち合わせているんですね。

経営していたタクシー会社は嫌がらせを受け、毎日暴言の描かれた落書きを消す。暴力親父から解放されても、母の言うような「好きな人生、成りたいものに成れる人生」は歩めなかったのです。

そんな状況の中で、15年ぶりに母が家に帰ってくると。もうね、観客である私も兄妹が母に対して、どんな反応を示すのか怖いんですよw

母は良かれと思っての行動だった。しかし、思わぬところで兄妹と会社が代償を払うことになってしまう。そのことを母が知ってしまったら、壊れてしまうんじゃないかと。

 

それでもこの映画の秀逸なところは、母が自分の行動を完全に正当化してみせてところなんです。「お母さんは間違ったことしていない!」とハッキリと息子の前で言ってしまう。

露骨に母に対する恨みを吐き出す雄二の前でも、揺れない母。その時、田中裕子さん演じる母が大好きになりましてw

だって映画だと敢えて登場人物に葛藤を与えて……とかやるじゃないですか。特にこんなテーマだったらね。でもキッパリと「私は間違っていない!」と言わせてしまう潔さ。確かに、ここで当の本人が揺れては子供たちは救われません。

もちろん嫌がらせされる様子を見て、思うところはあったのでしょう。それでも会社から逃げ出したりだとかは一切しない。

母が初めて帰ってきた日なんて、気まずそうにしているのかと思ったら、庭でバーベキューやってましたからねw

タクシー会社の人たちも「あんなクズ夫を引くなんて。本当に勇気あるね」みたいな声をかけたりしていて。このルーズさが本作の魅力なのでしょう。俺なら嫌がらせ受けたら、会社なんて辞めてる。

 

結局のところどちらが正しかったのかは分からない。夫を殺さなかったら、もっと不幸になってたかもしれないし。

そんなのは観客がいくら考えても分からない問題なんですが、俺からすれば他に手段はあったとは思う。殺すことでした父親と子供を引き離せなかったのだろうかと。

それこそ身内のタクシー会社に助けてもらうんでも良いし、警察に駆け込んでみるでも良い。手を下す前に何か方法はあった気がする。そりゃ二択になってしまえば、殺すしかないってなるのは理解できるけど。

でも、そこにツッコんでしまったら物語が始まらない。とにかく彼女がブレずに、自分の行いを見つめていることが観客にも兄妹にとっても、救いになっているんじゃなかろうか。

そして家族になる

正直言って主演の3人似てないじゃないですか?佐藤健さんと鈴木亮平さんは特に。全然タイプも違うと思いますし。

しかも皆さん有名な役者だから今まで演じてきた役のイメージもあって、本当に兄妹に見えるのか心配だったんですよ。

映画冒頭は佐藤健演じる雄二だけ東京に出ていて、他二人は地元に残っている。雄二が帰ってきても兄妹とは距離を置いているので、一緒のシーンが意外に少なかったりするんですね。

雄二以外の二人は家に戻ってきた母を何とか歓迎しようとしても、雄二は母を拒絶してしまう。そこでやっぱり兄妹にも溝が生まれていき、やがて分裂していくと。

週刊誌の記者として働いていた雄二は、母が起こした事件を記事にして金を稼いでいたりするんですよ。

しかし、雄二は雄二なりに母に対しての想いがあって「母が暴力親父から解放してくれたんだから、何としてでも成り上がらなきゃいけない」と考えての行動でした。

 

で、物語が進むにつれて面白いことに、三兄妹は身にまとった空気すらも似てくるんです!最初は似ていなくも、同じく母について悩んで苦しんできた過去を持つ兄妹に見えてきてしまいます。

最後には母が犯罪を犯した時と同じように、タクシーを奪って三人で母を追いかけるってシーンがあるのですが、その時の団結力は家族そのもの。

その後にも昔雄二が盗んだエロ本の話をするシーンがあって、そこまで来るともう三人とも兄妹にしか見えないんですね。

演じた三人の演技力もそうですが、この合わなそうな(少なくとも兄妹には見えない)三人をキャスティングしてきた人は天才だろ。そして三人を兄妹に見えるよう演出した白石監督も凄い。

メインである三人が兄妹にならなかったら、映画として成り立ちませんからね。そう考えると絶妙なキャスティングだと思いました!

まとめ

暴力的な描写が多いと思っていたんですがね。白石監督作品。

あの緊迫感も好きではありますが、『ひとよ』のような人間ドラマもかなり楽しむことができました!

鈴木亮平さんの吃音演技は良かったですね。俺自身吃音者なんで、まぁよくわかるかな。

雄二が言った「兄貴なんて大人になっても”どもり”が治らなくて、何するかわかんない」って台詞はグサッと来たけども。

松岡茉優さんは相変わらず可愛くて、気が強くて最高でしたw

以上!!!

 

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