
日本が舞台だけど、登場人物のほとんどが日本人じゃない。
日本の小説が原作だけど、主演はブラピ。
そんな摩訶不思議な映画『ブレット・トレイン』を観てきました。
海外ではホワイトウォッシュ案件として、議論の的になっているようですが、人種的な問題はさておき、新幹線が外国人だらけなのは違和感ありますよ。
ブラピが乗車してれば、退屈で、駅弁臭に耐えるしかない列車の旅も楽しくはなりそうですが。
では、以下、感想です。
ブレット・トレイン
作品解説
原作は伊坂幸太郎の小説『マリアビートル』。
多くのサイトでサラっとしか解説されていないので、この場を借りて伊坂氏による“殺し屋三部作”をおさらいしましょう。
そもそも原作の『マリアビートル』は、殺し屋三部作における第2作目です。生田斗真主演で映画化もされた、『グラスホッパー』の続編として制作されています。つまり、この映画は原作の展開を無視して、いきなり2作目からスタートするわけです。
とはいえ、原作自体も単体で楽しめる作品ですし、映画でも同様に“続編”と意識しなくても問題ありません。原作再現度も40%ほどなので、あえて原作を読む必要もないのかなと(作品としてはおすすめですが)。
そんな本作の監督を務めたのは、『デッドプール2』のデビッド・リーチ。
『ジョン・ウィック』や『アトミック・ブロンド』をはじめとする、アクション映画で有名な監督です。日本との繋がりとしては、Netfixオリジナル作品『ケイト』を手掛けたことくらいですかね。
主演は誰もが知るブラッド・ピット。原作では日本人の天道虫ですが、映画では白人男性に。オーラ抜群のブラピが、幸の薄い殺し屋を演じるなんて、おそらく最初で最後かと。
共演は『キックアス』のアーロン・テイラー・ジョンソン、『キスから始まる物語』のジョーイ・キング、『エターナルズ』のブライアン・タイラー・ヘイリーなどなど。シークレットになっているカメオ出演にも注目です。
日本からは真田広之さん、チョイ役ですが『ザ・ボーイズ』の福原カレンさんが出演しています。
評価
ストーリー | ★★★☆☆ 3/5 |
キャスト | ★★★★☆ 4/5 |
演出 | ★★★☆☆ 3/5 |
映像 | ★★★☆☆ 3/5 |
アクション | ★★★☆☆ 3/5 |
総合評価 ★ 6/10
「原作の要素はほぼないが……」
わかってはいたことですが、原作の面影は少なめ。
伊坂ファンの方々が楽しめるよう、配慮はあるものの、ハリウッドに染められたアクション映画でした。
問題は「伊坂の部分」と「ハリウッドの部分」が、うまく“連結”できていないこと。特にラストの展開は、直近までのストーリーと噛み合わず、浮いた印象を与えます。
とはいえ、娯楽作としては申し分のない作品だと、最終的には結論付けるわけですが。
以下、ネタバレありです
感想
運の悪い殺し屋、東京に行く
舞台は東京。「ブリーフケースを盗み出す」という、超簡単な任務を受けたレディバグ(ブラッド・ピット)は、目標の新幹線に乗り込みます。しかし、このレディバグという殺し屋は、不運な男で、やることなすこと全部裏目に出ます。当然、簡単だとされていた任務も失敗し、1駅で降りるはずだった新幹線から出ることもできません。
一方、新幹線の中には、別の殺し屋も乗っていました。ミカン(アーロン・テイラー・ジョンソン)と、レモン(ブライアン・タイラー・ヘイリー)のコンビ、そして日本人の木村(アンドリュー・小路)。それぞれが別の任務を受けており、ブリーフケースを巡って殺し合いが勃発します。
その背後では、ヤクザ界の大物“ホワイト・デス”の陰謀がうごめいていて……。
序盤の展開は、ブリーフケースを奪い合うことがメインです。ブリーフケースと言えば『パルプ・フィクション』を思い浮かべる方も多いと思いますが、タランティーノの影響を受けていることは、まず間違いないでしょう。特に『キル・ビル』あたりは、ヤクザ周りのストーリーの元ネタになっていると言っても過言ではないかと。
会話劇にフォーカスしているのも、もちろん伊坂作品の影響もあると思いますが、映画好きにとってはタランティーノを思わせる描写かなと。もしくはガイ・リッチー作品か。
そんなわけで、映画冒頭から既視感を覚える作風です。しかし、原作を読んだ身として、この映画に求めていたことは、たったひとつでした。
檸檬と蜜柑のコンビがしっかり描けているか。
伊坂幸太郎の作風や面白さが、そのふたりに凝縮されているからです。だからこそ、レモンがトーマスの話題を出した時点で、もう合格は決まったようなもの。僕はもう、それだけで満足なのです。
ただ、それだけでは感想文として面白くないので、不満点も含めて語っていきます。
列車という舞台装置
映画の世界では、古来より列車は重要な舞台装置でした。最初期の映画は、列車がただ駅に到着するだけのものです。その後もヒッチコックやキートン、黒澤明の名作だったり、最近では大ヒットアニメ映画だったり、列車が登場する名作映画は限りなく存在します。
列車というのは、基本動いているものです。そして、大勢の人が乗るものでもあります。映像の中に動きと迫力が生まれるんですね。舞台が絶えず動いているなんて、これ以上に映像向きな場所があるでしょうか。
この背景を踏まえると、本作は舞台が日本で、アメリカにはない新幹線が登場する。これだけで失敗する理由がなく、最低限面白いに決まってます。
原作の舞台も新幹線ですが、基本的に主人公らは外に出ません。ひたすら列車の中を行き来して、トランクを追い続け、登場人物たちの思惑が交錯していく物語です。
一方、映画では爆速で移動する新幹線をところどころで映したり、キャラを新幹線の外に出してみたり。挙句の果てには、走行中の新幹線に飛び乗るなんて、バカっぽいシーンまで存在します。
原作とは大きく違うけれど、列車を舞台にしたのだから、キャラを屋根に張り付かせたいし、飛び乗らせたい。バカっぽくても、不自然でも、とにかくアクションを楽しんでくれ!と言いたそうな作品で、この点の脚色に関しては大いに満足です。
日本を舞台にした意味
タイトルの「ブレット・トレイン」は、「新幹線」を意味する言葉です。アメリカには新幹線がありませんから、「弾丸列車」なんて、カッコいい響き。新幹線は東京オリンピック以降、日本の顔ですし、そんなアイコニックな場所を舞台にしてくれることに、嬉しさすら感じるわけですが……。
残念ながら、本作は日本で撮影されていません。登場人物も一部を除いて外国人であり、「日本人よりも外国人が多い新幹線」という、そこそこ奇妙な現象が発生しています。新幹線を降りるシーンもないですし、別に日本が舞台でなくても成立するストーリーです。
日本の描写もいわゆる“サイバーパンク”的というか、ネオンギラギラ&謎漢字の勘違いジャポン。「これ観て日本に来たらガッカリしない?」と心配になるほど、煌びやかに演出されます。
多くの人が「日本じゃなくてもよくねぇ?」と思ったりすると思いますが、日本が舞台だからこそ、真田広之さんの起用があったと思うんですよ。
真田さんが演じるのは、列車に乗っている殺し屋・木村の父である“エルダー”です。彼自身、凄腕の殺し屋で元ヤクザ。ホワイト・デスに家族を殺された恨みを持ち、その復讐のために新幹線に乗りこんできました。
ホワイト・デス自体、オリジナルキャラクターなので、エルダーの役割も大きく変わっています。原作では王子(映画版のプリンス)を懲らしめる役どころで、作品のまとめ役でしたが、映画版ではまさかのメインキャラクターを食いまくる武士に。
真田さんが新幹線に乗って以降、完全に主役を食いはじめるんですよね。ホワイト・デス役がマイケル・シャノンということもあって、映画の雰囲気はガラッと変わってしまうと。当初は「檸檬と蜜柑が……」と思っていたけれど、エルダーが予想外の動きと活躍をして、思いもよらぬ満足感を得られました。
ブラピも、そのほかのキャストも好きですが、真田さんはやっぱり別格だった。僕が日本人だからとか、そういう目線を抜きにしても、この人の迫力と存在感はハリウッドスターをも凌駕するんだなと。
カメオ出演
最後にカメオ出演について。
まず、列車の乗客役としてチャニング・テイタムが登場。原作における鈴木、もしくは女装男の役割ですかね。ブラピとも言葉を交わし、いつの間にか新幹線から姿を消しています。
そして、ブラピ演じるレディバグのサポート役にサンドラ・ブロックが登場。序盤から声だけで出演しているのですが、ラストにはレディバグを迎えに来てくれます。
テイタムとブロックは、映画『ザ・ロストシティ』で主演を務めていたふたりです。同作にはブラピがカメオ出演しているので、そのお返しと言わんばかりの登場でした。
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さらに、最後の最後でまさかのライアン・レイノルズが登場!回想シーンだけですが、本来レディバグの代わりに新幹線に乗るはずだった殺し屋役として出演しています。こちらも『デッドプール2』にブラピが出演したお返しですかね。もしくは、監督繋がりか。
こんな感じでカメオ出演も豪華ですが、まさかマイケル・シャノンが出演しているとは思いませんでした。
ホワイト・デスがずっと顔を隠しているものだから、誰か有名な俳優が来るとは思いましたが。真田さんと一騎打ちの戦いもあるし、なんて贅沢な映画なんだ!
以上